昨年、「Warriors of Art」という英語版の本を出版したので、最近は海外からのメールが増えた。なかでも多いのが「東京に行くのだが、ムラカミとナラの作品がある美術館を教えてほしい」という質問だ。
私はいつも返答に困ってしまう。
今、世界が注目する日本人アーティストといえば、村上隆さんであり、奈良美智さんである。しかし、残念なことに彼らの代表作は東京にはほとんどなく、まとまった作品を常設している美術館もない。世界で活躍する自国の作家の作品が首都で見られない国は、先進国では非常に珍しい。
海外コレクターによる日本人作家の作品の買い方を見ていると心配になる。浮世絵と同じように、海外から作品を借りないと、日本人作家の代表作を日本で見ることができない未来が待っている気がする。
私はアートが身近にあることの効用を説き続けてきた。作品と一緒に暮らすことやアーティストと同じ時代を生きることで、生活が充実したものになる。展示会場やメディアでアーティストの生の声を聞き、精神的な影響を受けることもできる。
アートは問いかけであって答えではない。作品と対話し、正解のない問いを自問自答することで、考える体験が増える。現役で活躍するアーティストとの一期一会的な出会いは、創造のプロセスを一緒に体験することにもなる。知識を深める体験ともつながり、「もの」の蓄積とは異なる「こと=体験」の蓄積となり、経験の知が増えていく。
現代アートとの出会いによって、何かを感じる、何かを学ぶといった「人生の彩り」を得られる。
世界が日本の現代アート作品に注目し、新しい展開を見せようとしている今こそ、アーティストへの応援や支援を広げるチャンスだ。私は「現代アートのチアリーディング活動」で、一人でも多くの方に、現代アート作品をきちんと見ていただける機会を提供できればと思っている。
◇2月は日本美術史家の辻惟雄さんによる執筆です。