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| 宮内庁三の丸尚蔵館 蔵 |
江戸時代の奇想画家・伊藤若冲(じゃくちゅう)。その人気は当分衰えそうにない。40年近く前、拙著「奇想の系譜」の中で若冲を紹介したときは、こんな画家がいたのかと驚かれた。それが今では尾形光琳さえしのぐ人気だ。
ブームのきっかけは2000年に開かれた「若冲展」にある。京都国立博物館が単独で企画した。会場は最初がらがらで、「ワカオキさんって誰ですか」という問い合わせもあった。ところが、後半になって観客がみるみる増え、入場者は最終的に10万人近くに達した。若い人が多かったのも特徴である。
スポンサーの宣伝なしにどうしてこんな現象が起こったか、ある学生が卒業論文でこの謎に挑み、インタビューを繰り返して得た結論は、意外やeメールやインターネットを通じての個人的な情報交換にあった。若冲ってスゴイ、是非見て欲しい−−「口コミ」ならぬ「メルコミ」の効果がてきめんだったわけだ。
若者の目をくぎ付けにした理由は、多分その不思議な美しさにある。美しい夢と言い換えてもよいが、いくぶん気味悪い夢でもある。代表作「動植綵絵(さいえ)」のなかにはそれがいっぱいつまっている。
「棕櫚雄鶏図(しゅろゆうけいず)」=写真=がその一例だ。薄暗い空間に黒白のシャモ。真正面向きの棕櫚の葉の付け根には不思議な穴があいて、こちらをのぞき見する目のようだ。どうしてこんな目が付いているのか、中沢新一さんに尋ねたら、「それは、言葉の代わりに失った野生の思考が、目になって残っているのだ」と答えられた。華麗なる野生の思考−−若冲の絵の本質は多分ここにある。