音楽家や作曲家の間で「フヅラ(譜面)」という言葉がある。楽譜の面構えの事で、譜面(ふめん)の読み方を変えただけではない。「フヅラ」の良いスコアは演奏した時、良い音がする。見た目が美しいスコアは美しい音がする。慣れてくるとビジュアル的に見た通りの音がするのである。
分かりやすいのがオーケストラのスコアである。縦に木管、金管、打楽器、弦という順番で、横に音楽が流れる時間軸となる。楽譜の分からない人でも1回ぼんやりとスコアを眺めてみてほしい。古典までの時代よりも少し近代や現代にかけての方がより一層フヅラは複雑になり、多くの模様を描き出す。例えばラベルの「ボレロ」やストラビンスキーの「春の祭典」。ぱらぱらとめくると細かい版画を見ているような美しさを感じて頂けると思う。現代音楽の領域になると、これはもう音に出すよりもフヅラだけのために書いた、いや描いたのではないかと思うスコアが沢山(たくさん)ある。規則性のあるトゥッティー、美しい三角のクレッシェンド。木管の踊る8分音符、シリアスな低弦の全音符。細かい音符や連符があると、複雑さの中に秩序が生まれ深みを増す。ある1ページを額に入れて眺めると、絵画のような鑑賞の価値が生まれる。
音楽大学やコンクールなどの審査は主にフヅラの審査である。採点をする側はまるで絵画を眺めるようにスコアを開く。音楽の内容はだいたいこれで分かってしまう。
書く側はどうかと言えば、これはもうとてもハマる。複雑で美しいスコアを書くには時間と体力がいるが、書き終えた達成感は何事にも換え難い。1ページ約15秒の音楽を書くのに丸1日かかる時もある。薄く目を閉じフヅラの足りない所や書き直したい所を探す。使う道具もまるで美術家のようである。
僕は美しい音楽を書きたい。「美」が作品の中心にある。だからいかに時間がない時でも、絵画やデザイン画のように綺麗(きれい)で美しいスコアを描こうと心掛けている。