
子供の時分から、図面の類(たぐい)を見るのがたまらなく好きだった。住宅の間取り図や地図などを見つけては、「小人」になって図の内部へと入り込み、夢中になって何時間でも旅するのである。
後に建築史の世界に触れるようになると、その小人旅行で培った感覚は、建物や街並みをつぶさに観察する上で大いに役立った。ときにスケールの異なる平面図や断面図を幾度も往復しながら、ときに現実の空間と古い地図の世界とを行き来しながら、かつて在った街並みの輪郭を頭の中に描き出していく。図面から図面へと自由自在に動き回り、歴史の断片を緻密(ちみつ)につなぎ合わせていくことで、今日の街の風景は時間的厚みを帯びて見えてくる。
やがて私は、こうして浮かび上がる街の姿を記録しようと、色鉛筆を片手に都市図を描き始めた=写真は部分。見落としてしまいそうなほど細かい建築装飾から、荘厳な柱の形状、考え抜かれた建物のプロポーション、街路や広場の造形に至るまで、時代時代の美しい風景を幾重にもコラージュさせながら、一枚の図面上に落とし込んでいくのである。もちろん、実際に足しげく街を訪れ、現場で感じ取れる雰囲気も併せて記していく。
すると、古いものと新しいものとが、「美しさ」という視点を軸にすっとつながっていくように思えた。自分でも驚くほどだ。先人たちが追い求めてきた「美へのこだわり」――これを見つめることは今日の街の価値を見直すことになり、その刺激に触れることで、私たちは街をより魅力的にしていくことができるのではないだろうか。
いつか、私の描く都市図の中でも、小人となって旅する少年が現れることを願いつつ、一枚また一枚と描き続けている。