目にも鮮やかな深紅色を壁一面に施した部屋。昭和初期に建てられた「旧日向別邸」(静岡県熱海市)には、私を魅了する空間がある。粗い絹織物を染め、漆喰(しっくい)壁に張るという技法が使われている。和の素材を生かした設(しつら)えでありながら、モダンな意匠を漂わせているところがじつに斬新だ。
手掛けたのは、ドイツ人の建築家ブルーノ・タウト(1880〜1938)である。戦前の数年間を日本に暮らし、各地に遺(のこ)る美術工芸や建築物の素朴な美しさに触れ、単純性を旨とする日本の造形文化に惜しみない賛辞を贈った。大胆な色彩の壁は日本的な造形の再解釈であり、日本人が忘れかけていた日本美を引き立て、その誇れるものについて振り返る契機を与えてくれている。
確かに、どんな建物にも「誇り」と呼べるものがあるはずだ。そこに暮らす人々には、長年にわたって受け継いできた愛着の情があるだろう。また建物のつくり手にも、誇るべき技の数々があるだろう。そうしたおのおのの誇りを敷地の内だけに留めておくのではなしに、地域の文化的財産として広げていくことができないだろうか。
そんなことを考え、数年前より街の建築物を一般に公開するという企画に挑戦している。大正末期に建てられた木造住宅、昭和初期の近代的なオフィスビルや倉庫建築など、普段は観(み)られない建物の内部を公開し、その知られざる魅力を皆で共有していこうという試みだ。これは見学者にとって意義深いだけでなく、公開する側にとっても、自らの建築物に対する関心を高め、それまで気づかなかった価値を再認識する機会となっている。
建築は、やや難しい芸術に思われるかも知れない。しかし、「誇り」という親しみやすい切り口であれば、より多くの人々が建築や街について考え、やがて私たちの文化に一層の成熟をもたらすことができるのではないか。そんな展開を目指して、さらに邁進(まいしん)していきたい。
◇2月は映画監督の金子修介さんによる執筆です。