美術館に入るとなぜ人は無言になるのだろうか。そこに神聖さを見いだそうとしているからだろう。美術館は教会や神社なのだ。今や美術館はそれに匹敵する礼拝の場所になっている。宗教ならば、民族や国家の枠を超えることは難しいが、美術館はその境界を軽く飛び超える。
世界中に美術館を持つソロモン・R・グッゲンハイム財団は、スペインの片田舎ビルバオを世界中から美術巡礼者を集める聖地に変え、フランスのルーブル美術館はアラブ首長国連邦にも分館を出すことになった。
アートというソフトパワーは軍事力というハードパワーに勝る力を持ち始めている。しかし、その運用は軍事力以上に難しい。なぜならば、アーティストたちはお金という世俗にまみれた価値からなるべく遠ざかりたいという殉教者にも似た心情の持ち主であり、それを組織していくには、繊細さと大胆さの相反する力が必要だからだ。そのため、アートにまつわるお金は、世界中で最もデリケートなお金ということになるだろう。
このお金を現代の信仰に変えるには、何よりも人と戦略が大事だ。例えば、六本木ヒルズは最上階に美術館を作り、評判の英国人学芸員を館長に招くことで世界の注目を集めた。一方で、巨額の税金でアートの支援を試みるが、分散しすぎて人目をひかない事例もある。選択と集中が重要なのだ。
江戸期や海外の作品にひかれなかったわけではないが、日本の若手作家の作品に限定することで、高橋コレクションは成立した。そしてこの4月、三井不動産の協力を得て、白金から日比谷に展示場所を移し、規模を拡大することになった。世界が注目する日本の若手作家の常設展示場所が、東京の中心に生まれることになる。
5月に上野の森美術館で開催する私のコレクション展と併せて見て頂けると、若い世代のこの10年の成果に驚かされるはずだ。同美術館で現在開催中の「VOCA展」を見ても、日本の若手作家は元気だ。私はそのエネルギーを発信し続けることで、小さいながらも日比谷を世界の美術愛好者の巡礼地にしたいと思う。
◇4月は作家、僧侶の瀬戸内寂聴さんによる執筆です。