昨年秋、石川県立美術館の中に私どもの店「ル ミュゼ ドゥ アッシュ KANAZAWA」がオープンしました。漆塗りの壁と5席の茶室を持つ日本の美を表現した空間で、加賀棒茶や五郎島金時など土地の名産品を生かしたデザートを出しています。
私が店で一番大切にするのは、文化や背景を考えながら、その土地の素材を生かすこと。石川県は私が生まれ育ち、世界一の洋菓子職人を目指して18歳で離れた思い入れの深い場所です。
開店準備にあたり、あらためて町を巡り、冬の兼六園がとりわけ印象深く心に残りました。日本三大名園の一つで、縄で枝を支えた「雪吊(ゆきづ)り」の木々が幾何学模様のように並んでいました。その上に降り積もる雪の風合いは、神の息吹さえ感じさせるものでした。
上京、海外での修行と故郷を離れた生活が長くなるにつれ、いやおうなく自分のルーツを意識するようになりました。雪吊りの光景を目の当たりにしたときの感動と歴史を組み合わせ、石川を代表する銘菓を作りたい――。新作「YUKIZURI」には、こうした思いを込めています。
縄のねじれた様は、フランスの伝統菓子「サクリスタン」からヒントを得てパイ生地で表現。チョコレートチップを混ぜ込んだサブレをアーモンドクリームでパイと合わせ、焼き込みました。雪に見立てた砂糖のシロップをかけ、加賀前田家の家紋・梅鉢紋にちなみ、梅の果汁を加えています。
このほど、県の観光大使に任命されました。故郷に少しずつ恩返しをしたいと思っています。商品の売り上げの一部は辻口博啓夢寄金として、子どもたちの文化活動に役立てるつもりです。YUKIZURIには私のルーツである石川のすべてがつまっています。