一昨年、ロンドンの大英博物館で「わざの美:伝統工芸の50年」と題する日本の工芸品の展覧会が開かれた。陶芸や染織、漆、金工、竹細工などさまざまな分野を代表する作品112点が展示され、イギリスの美術愛好家の目を大いに楽しませた。私もこの展覧会に行きあわせたので、展示品だけでなく鑑賞中の人々の反応を、興味深く観察させてもらった。
まず、何よりも人々を驚かせていたのは工芸品の質の高さである。何百年もの伝統のなかで育まれ継承されてきた技術は、時の流れのなかで磨き抜かれ、形と色の組み合わせも作る側と使う側の緊張関係のなかで選び抜かれてきた。しかも時代によって移り変わる好みや流行にも敏感に反応し、世界でも類(たぐ)いまれな美の領域を形成してきたのである。しかし、来場者たちの驚きの多くは、この伝統の存在を知らないことに起因していた。というのも、展示されている工芸作品のそれぞれは、西洋美術とは異なり、うちに秘めた美の思いを声高に語ることはなく、むしろ寡黙であることを潔しとする、世界にもめずらしい造形表現だからである。
目の前に突然出現したかのような工芸作品が、どのような技術と感性によって創作されているのか、また、その背景にある日本の風土と日本人の精神をしっかりと紹介すれば、おそらくこのような驚きはなくなるであろう。その段階で、日本の美術工芸が真に理解されたことになるのである。
控えめであり、声高でないからこそ異なる文化環境においても受け入れやすいわが国の工芸。より広い世界に更に普及させるには、海外での展覧会をこれまで以上に頻繁に開催すると同時に、展示即売会や出版物など様々な手段を活用してより持続的な紹介をすれば、多くの国々で歓迎されるに違いない。そうして人々の生活の質が高まれば、今以上に生活を大切と思うようになり、世界の平和と友好の増進に貢献すると確信する。
◇11月は建築史家の藤森照信さんによる執筆です。