普段、鼻水を出す芝居をすることなどない。したがって春うららかなこの時期は、花粉症が演技の邪魔をすることになる。
三島由紀夫の戯曲「葵上」を、麻実れいさんと花粉が飛び交うこの時期に上演したことがある。劇中の僕は女性たちを狂わせてしまうほどの美貌(びぼう)の持ち主。幻想的な物語の中で、麻実さんが官能的に迫ってくる。
舞台の冒頭から鼻の調子は最悪。美しい世界観の中では、当然ティッシュで鼻をかんだり、衣装の袖でぬぐったりといった隙(すき)もなく、鼻水垂れ流しの演技を続けざるを得ない。そんな中、物語中盤のキスシーン。
鼻のかみすぎで鼻の下はカピカピ、唇ガサガサ、そして鼻水テカテカ。鼻水を吸おうとしても、水っぱなでは吸いようもない。それでも、こんな男の唇を麻実さんは官能的に奪っていった。(僕が言うのもなんだけど)これぞ女優魂。
今年の1月、来春公開予定の映画「誰も守ってくれない」の撮影で、風邪っぴきの新聞記者役を演じた。
残念ながら花粉シーズン前。ティッシュを丸めてこよりを作り、本番直前にくしゃみをして、リアルさを追求。でも、鼻をこよりで突いている姿は、あまり格好いいものではない。(メーキングカメラも回っている)。隠れてくしゃみを連発し、鼻声涙目の演技をしていると、君塚良一監督や共演者の佐藤浩市さんに「蔵之介君、本当に風邪?」と心配された。「ばれてない!」と、心の中でガッツポーズ。
意気揚々の帰途。同僚役のTake2・東貴博さんが、生放送のラジオで「佐々木蔵之介の役者魂を見た!」と早速こよりのことを話しているのを聞いた。
言わんといてよ……。ちゅうか、僕のこよりは役者魂とは言いません。
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佐々木蔵之介 68年生まれ。京都市出身。映画「ぼくたちと駐在さんの700日戦争」公開中。4月15日から始まるドラマ「絶対彼氏」(フジ系)に出演。
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