底冷えの京都で、映画「憑神(つきがみ)」の撮影をしていた時のこと。僕は疫病神に取り憑かれた侍役。夏の設定のため浴衣一枚で床に伏せる。オープンロケセットなので、画面では屋内に見えても吹きっさらし。役が役だけに、ガタガタ震えながら、リアルな病人になりきった。ら、どうやら本当に熱っぽい。尋常ではない下痢と嘔吐(おうと)。救急病院に駆け込むと、当時流行していた「ノロウイルス感染」と診断された。
翌朝一番、東京行きの新幹線に乗るも、トイレの指定席は取れない。トイレに一番近いドア横の席を指定し、東京までトイレとの往復。トイレが自由席で本当に良かった。
東京に着き、今度は「椿三十郎」の、押し入れに閉じ込められた捕虜の侍役。依然、おなかはゆるい(気を抜かば何時でも出るぞ!)。木村(僕の役)は、中村玉緒さん演じる奥方から上等な着物を着せて頂いている。着付けにはかなり時間を要するため、何度もトイレに行くことはできない。「大切な衣装は汚されへん!」。紙おむつを買いに行く時間はなく、バスタオルを5枚ほど下腹部に巻いて撮影に挑む。
押し入れの中で役に入り込む。「実際木村は厠(かわや)に行くのはどうしとったんやろ? 見張りの若侍は行かせてくれたんか? にしても『木村』って下の名前はなしか。椿三十郎とか室戸半兵衛とか時代劇っぽくてかっこええのに、役名『木村』って、現代やん。でも昔は、袴(はかま)で用を足すのは面倒くさかったやろなあ。あっ、ふんどしは楽か。ずらすんか、どうやんにゃろ?」
とっても役が深まった。見た目も捕虜らしくやつれ、タオルをきつく巻いたせいで、丹田に力が入り気を漏らさぬ演技もできた。
ノロのおかげで、想(おも)い出深い愛着のある役になった。でも、もうこんな呪われた侍は御免だ。
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佐々木蔵之介 68年生まれ。京都市出身。自らプロデュースした舞台「抜け穴の会議室」をDVD化。ドラマ「絶対彼氏」(フジ系)に出演。
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