時代劇は現代劇と違ってタイヘンだ。まず衣装が一人じゃ着られない。一度着れば、トイレは我慢。着崩れないよう常に背筋は伸ばし、食事も帯で締め付けられ食べた気がしない。でも、なにより大変なのがカツラ。こいつをつけるにはけっこう手間がかかる。
まず自分の髪をまとめて羽二重(シルクでできた肌色の頭巾(ずきん)みたいなもの)を被る。次に羽二重と地肌をなじませる。額部分の境目は、視聴者も気になるところ。(映画「憑神(つきがみ)」では、木村カメラマンが「川向こうにいる町人のでこが気になる!」とメークさんを走らせた)。そして最後にカツラを装着するのだ。
時代劇「おはつ」の舞台でのこと。僕は松たか子さん演じる遊女おはつと添い遂げようとする侍。そこに立ちはだかるは、北村有起哉さん演じる沖田総司。おはつが舞台中央で見守る中、戦いの火蓋(ひぶた)が切って落とされる。
息もつかせぬ大殺陣回り。剣豪沖田との死闘が繰り広げられるまさにクライマックス。沖田が一瞬の隙(すき)を突き、大きく踏み込み袈裟懸(けさが)けに切ってくる。寸でのところで刀をかいくぐるも、その一瞬。沖田の刀と僕の髷(まげ)がわずかに触れた。バサリ! 鋭い刃が髷を切り落とし……たではすまないのがお芝居。観客の目の前に落ちたのは、髷でも首でもなく、カツラだった。
劇場全体に緊張が走る。刀を振り下ろしたまま固まっている有起哉。固唾(かたず)を飲んで見守る松たか子。静寂の中、観客の視線が僕の頭に集まっていく。坊主が一礼。そしてカツラを拾い、禿(は)げた頭に乗せて正眼の構え。
客席は大いに沸いた。松たか子も笑った。終演後、床山さんに謝りに行くと「毛がなかったけど、ケガなくて良かったね」と笑ってくれた。
時代劇ではいいが、現代劇では落としたくないものだ。
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佐々木蔵之介 68年生まれ。京都市出身。映画「アフタースクール」公開中。映画「20世紀少年 第1章」8月30日公開。
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