ドラマの現場で「惑星ピスタチオの公演ずっと観(み)てました」と若い俳優が声をかけてくれた。彼も小劇場の役者。映像の仕事は初めてでド緊張してるんです、という。僕も同じだった。
ドラマ初出演は「天国に一番近い男」。松岡昌宏くんの兄で政治家役。舞台は稽古(けいこ)があるが、ドラマはその日会ってすぐ本番。得体(えたい)の知れない恐怖に震える撮影前夜、突如鳴り響くファクス受信音。ジ…ジジジ……。A4判3枚びっしりの街頭演説台本が吐き出されてきた。ゲェェェッー! テレビという魔界にのみ込まれた瞬間だった。夜中の公園で一人泣きながらセリフを返した。
気が付いたら新橋駅前、タスキをかけ選挙カーに立っていた。白い手袋に呪いのファクスが握られている。「いい天気だね〜」とエキストラのおじさんが陽気に話しかけてくる。(セリフ不安やから、ちょっと一人にさせて)「選挙カーの上って見晴らしいいね〜」(うわ、みんな見てるやん。やばい集中!)「通行人いっぱい集まってきたよ」(わかったわ、だぁっとれ!)「今朝は何時起き?」(関係ないやろ。寝てへんわ。もう、あっち行ってくれ)。艱難(かんなん)辛苦をかいくぐり、なんとかやり通す。
疲労困憊(こんぱい)、帰りの電車でマネジャーに宣言した。「テレビ向いてへんわ。二度とやらん」
今年の夏、東京で役者の仕事を始め10年になる。今でも自分が役者に向いているとは思わない。あの時感じた不安や、どこに向かっているのか分からない不確かさは相変わらずだが、それらと少しは向き合えるようになった。
原油価格高騰で省エネが叫ばれているが、未来、僕の演技にエコは断じてない。=おわり
◇来週からは、草刈民代さんの「これが私のいきるみち?」が始まります。
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佐々木蔵之介 68年生まれ。京都市出身。映画「アフタースクール」公開中。7月1日から始まるドラマ「モンスターペアレント」(フジ系)に出演。
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