懸賞サイトは朝日マリオン・コム-懸賞 プレゼント、懸賞 応募、懸賞 旅行
2004.6.30(水)更新
 いとうせいこうの自己流園芸ベランダ派

いとうせいこう タイトル

第12回 小鳥たちの無自覚なプレゼント
 ご近所のベランダー夫妻から三つの鉢をおすそ分けしてもらった。アヤメ、露草、ムラサキシキブ。どれも目に涼しい植物である。

 普段、俺(おれ)は熟考してからでないと鉢を増やさない。だが、今回はすぐに手が出た。特にアヤメと露草は絶対に欲しかった。

イラスト
題字と季語イラスト・上田みゆき
 夫妻の話によれば、それら2種の植物は小鳥によって運ばれてきたらしいのだった。買った覚えもないのに他の鉢から芽を出し、すくすく育ったというのだ。

 確かに、夫妻のベランダは4階建てマンションの最上階にあって屋根がない。したがって、小鳥が羽を休めるには最適である。

 気の小さい小鳥たちは、どんな方向へも飛び立てる場所にしか下りて来ない。空が広いベランダに、やつらは飛来するのだ。

 むろん休息をとるだけではない。時には手塩にかけて育てたピラカンサの実をついばんだりもするだろうし、何がうまいのか新芽をさかんにつついたりする。

 だが、小鳥は無自覚なお返しもするのである。どこか遠くの池の端っこあたりから植物の種を運び、水っぽい糞(ふん)に包んでプレゼントしてくれるのだ。

 その贈り物がアヤメ、露草だったというところに俺はしびれる。なんと優美な取り合わせだろう。やつらが平安期の小鳥だったと言われても、俺は納得する。

 小鳥だって大都会に住めば心がすさむ。少なくとも食い物は洋風化せざるを得ず、“さくらんぼよりアメリカンチェリーの方がうまいな”とか、“あたしはコンビニだけで暮らしていけます”とか、そういうことを言いたがる小鳥諸君の増加に俺は疑いを持っていなかったのである。

 ところが、生態系は案外変わっていなかった。小鳥はいまだに在来種のアヤメや露草の種をのみ込み、それをあちこちの土の上に落として回っているのだ。

 それは在来種のしぶとさをあらわす好例でもある。植物は小鳥を誘惑し、種を食わせ、胃で溶かされずに移動する。このサイクルもまた変わらないらしい。

 こうしてご近所のベランダへと運ばれたアヤメと露草が、今度は人間の手によって移動した。俺の家にやって来た。生命の巨大なサイクルに混ぜてもらった俺は今、とてもうれしい。

(2004/6/30)

イラスト いとうせいこう・作家

1961年、東京生まれ。小説など活字のほか、映像、音楽、舞台など幅広い表現活動を展開しており、都会に住みながら主にベランダで植物を楽しむ「ベランダー」としても知られる。


>>バックナンバー

第11回 すぐに根がつき、鉢植えになる「ノッポ」  (2004/6/23)
第10回 同志よ! ベランダに好物件などない! (2004/6/16)
第9回 植木市で珍品ゲット 俺は陶酔した (2004/6/9)
第8回 痛恨の不注意、アマリリスの墓標 (2004/6/2)
第7回 ベランダーの腕試される走り梅雨 (2004/5/26)
第6回 二つのマツリカの二つのはかなさ (2004/5/19)
第5回 母が勧める剪定でいい花咲いた (2004/5/12)
第4回 藤の機嫌を直した引っ越し (2004/4/28)
第3回 「特売品」は素早い対応が肝心なのだ (2004/4/21)
第2回 桜の花は下を向いて咲くのだ (2004/4/14)
第1回 「ベランダー」に福音の春が来た (2004/4/7)


サイトマップ | 会社案内 | 朝日マリオン・コムとは | 姉妹メディア | 会員規約 | 個人情報・著作権
asahi-mullion.comに掲載の記事や情報、写真の無断転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。
Copyright 2010 Asahi Mullion 21. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.