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2004.7.14(水)更新
 いとうせいこうの自己流園芸ベランダ派

いとうせいこう タイトル

第14回 咲かないダチュラと許せない虫
 何年も育てていたエンジェルズトランペット、別名ダチュラが今年の春に初めて黄色い花をつけた。

 花が咲いたのは頑固な無剪定(せんてい)主義を撤回したおかげであった。冬の終わりに思いきり茎を切り詰めておいたら簡単に蕾(つぼみ)がつき、それがみるみる開いたのだ。

イラスト
題字と季語イラスト・上田みゆき
 だが、駅までの道すがらご近所の様子を見ると、俺(おれ)の家以外のダチュラはもう一度咲いている気配なのである。やつらは初夏にも再び花をつけるらしいのだ。

 ということは、あれですか? 花後にもまた剪定するわけですか? 剪定初心者はそのあたりの事情がのみ込めないのである。せっかく咲いてくれた直後、まだ葉っぱも元気に茂っている茎を切るなんて……。

 実際に剪定が必要かどうかはともかく、俺の方のダチュラは2度目の蕾をつけようとしない。しないどころか、ついに俺が最も嫌う虫が付き始めた。

 柔らかな新芽のあたりにクモの巣みたいな白い膜が出来、そこにゴマくらいの大きさの茶色い連中がびっしりいるのである。

 ダチュラを特に好むあの虫を俺は許せない。だから葉の上にいれば必死に潰(つぶ)してきたし、連中が増えないよう葉水もやってきた。

 だが、とうとうクモの巣である。大きな葉の表面はやつらの影響で黄色く焼けてきて、触れれば落ちる。

 葉を食いちらかすなら、俺も我慢出来るのである。例えば青虫が出現して葉を食い、さなぎになってやがて飛び立つという話なら、俺も大人だから目をつぶるのだ。新しい命のために、葉っぱの4、5枚は喜んで寄贈する用意がある。

 ところが、あの茶色くて硬い連中は何がしたいのかわからない。ただ増えて、たぶん葉の表面をなめる程度にカリカリやり、変色させてしまう。

 寄生した植物を傷めつけ、弱らせるだけだとすれば自分たちの利益はどこにも見当たらない。昆虫界の愉快犯である。

 小さい体なんだから欲しいだけ食べて、あとはグーグー眠っていたらどうなのか。その間に植物は次なる葉をつけるだろう。それをまたほがらかに食えばいい。どうだ?

 俺の説得も空(むな)しく、連中は今日も無意味なテロ活動にいそしんでいる。

 こんなことなら花後にすぐ、元気な葉っぱごと茎を切り落としておけばよかったのだ。

(2004/7/14)

イラスト いとうせいこう・作家

1961年、東京生まれ。小説など活字のほか、映像、音楽、舞台など幅広い表現活動を展開しており、都会に住みながら主にベランダで植物を楽しむ「ベランダー」としても知られる。


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