花屋の店先で「頭の良くなる花」と書かれた札を見つけたのである。
頭の良くなる体操とか、サプリメントとかなら今までも存在した。そういったシリーズの中に、ついに鉢植えが登場したのだった!
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| 題字と季語イラスト・上田みゆき |
一見すると、どう見てもカランコエなのである。葉は厚めで明らかに多肉植物であり、細く伸びた茎の先には小花が群がっている。
カランコエを育てていると頭脳明晰(めいせき)になるという話は、少なくとも俺(おれ)に限っては聞いたことがない。確か母親が庭に大きなやつを植えていたのだが、以来頭が良くなったという様子は見られず、むしろ日に日に物覚えが悪くなっている。
となると、そいつはカランコエなどではなく、まさにノーベル賞ものの新種なのであった。人類が到達した科学の頂点、歴史がひっくり返るような品種改良の粋(すい)が、その非常にカランコエに酷似した「頭の良くなる花」に違いないのだ。
ところが、なぜか売れている気配がないのである。売れ残った小さな鉢物を集めた段ボールの中に、他のどうでもいいような植物と並べて置かれている。
重ねて不可思議なことには、その世紀の大発明がたったの600円なのであった。「頭の良くなる花」をこの世に生み出した巨大な研究所には、もうける気がないに等しかった。
困惑した俺は、札をめくって裏の文字から詳細な情報を得ようとした。だが、いかんせん文字が小さい。老眼が入り始めた俺の目では何ひとつ読めないのだ。
俺は即座にその場を去って、デパートの文具売り場へと急いだ。前々からルーペが必要な年齢だと思っていたのだが、今こそ買うべきだと判断したのである。
興奮のため二つもルーペを買った俺は、すぐに現場に戻った。だが、その時にはもう札の裏を確認する気は失(う)せていた。それがどんな植物であれ、買うしかないと決めていたのである。
家に帰って大きめの鉢に植え替え、書斎に置いた。ベランダに出したら誰の頭が良くなるかわからない。落ち着いてルーペを取り出し、札の裏を拡大した俺の目の前にあったのは、「カランコエ」の5文字とお手入れ方法だけであった。
頭が良くなる件に関しては、今もって謎である。