自慢のニッキが、この1カ月ほど俺をやきもきさせ続けたのであった。
なぜならある時、細い枝先に紡錘形の蕾らしきものをつけたからである。それもひとつふたつではない。枝という枝の先にだ。
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| 題字と季語イラスト・上田みゆき |
当然、俺は花が咲くのだと思った。ニッキの鉢さえ珍しいのに、幸運にもその花まで見ることが出来るのだと俺は有頂天になった。
ところが、その蕾≠ェなかなかふくらもうとしない。ゆっくりゆっくり時間をかけてまず長くなり、それからまたゆっくりとわずかにふくらむ。その動きだけで3週間が費やされた。
当初から、俺はニッキの花を白と決めつけていた。何の根拠もないが、それ以外の色を思いつくことが出来なかったので、俺はその白くさわやかで清らかで可愛らしいニッキの花を待ち続けることにした。
だが、3週間を過ぎ、どうにかこうにかほどけてきた蕾≠フ先端はすべて薄い緑色めいていた。これは出来れば気づきたくない事実であった。
もしやこれは葉ではないか……という最悪の考えが俺を打ちのめそうとした。いや、そんなはずはない!と俺はやっきになった。葉ならこれまでも脇芽から育っていたのである。それをわざわざ蕾≠゚いたふくらみにし、一斉に枝の先から飛び出させてどうするというのか。思わせぶりにも程がある。限度がある。
しかし、俺の悲痛な叫びを無視して、蕾≠ヘ少しずつほころび、ウスバカゲロウの羽に似た半透明で緑がかった物質が、葉脈もあらわに広がっていった。
途中、何度か俺はニッキに向かって手を合わせた。そういう花を咲かせる植物でありますようにと祈り、特に葉脈だけは消えますようにと強く念じたのだ。
葉脈は消えるどころか伸びた。どう見ても葉であった。1カ月の長きにわたって俺に白い花の夢を与えてきたニッキの蕾≠ヘ、どうあらがっても葉だった。
他の脇芽から育った葉とは違い、何葉もが蕾≠ゥら同時に現れた以上、たとえ花でなくても珍しい、ニッキならではの現象なのだろうと俺は今、自分に言い聞かせている。
そうでもしないと、花を待ちわびた俺の1カ月が丸々無駄だ。