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2005.5.11(水)更新  いとうせいこうの自己流園芸ベランダ派
いとうせいこう タイトル

第52回 雑草天国への飽くなき情熱
 俺は雑草を抜かない。それどころか、むしろ大いに歓迎する方針だ。

 俺にとっては、雑草も立派な寄せ植えの一部なのである。買ってきたわけでもないのに、ひとつの鉢に2種類以上の植物が育つ。実にお得な寄せ植えだ。

イラスト
題字と季語イラスト・上田みゆき
 しかもその2種類目の雑草は、1年の間に何度も咲く。基本的に小さな取るに足りないような花である。しかし黄色、白、紫と色もとりどりでかわいらしい。

 ベランダ園芸の場合、庭と違って雑草がみるみる全体を占拠するということがない。雑草は鉢ごとに繁茂し、種が飛散しても被害はやはり鉢ごとにとどまる。

 したがって、こちらは巧まざる寄せ植えの様子を、余裕をもって見守ることが出来る。本体が不調でも、雑草だけは間違いなく元気で、これが精神衛生上非常によい。ただし、植物衛生上のことは知らない。

 三つ葉、妙に葉の大きい三つ葉、細い葉がツンツン立ち、花後にやはり細いサヤが出来てやがて種がはじける草、その他いろいろ。俺は本体の植物より、これら雑草中心に水やりしている時さえある。

 さてしかし、この春、俺の雑草天国が度を過ぎてしまったのであった。

 幾つかの鉢の表土が完全に雑草で覆われ、土が乾いているかどうかを見ることも出来なければ、油かすを置こうにも雑草がクッションになっていて土に届かないのである。草の上に浮かぶ置き肥に意味はない。

 液肥のほとんどを雑草が吸い尽くしているおそれもあった。本体がやせ細っているのに、雑草だけがやる気満々という状態なのだ。

 抜かざるを得ないと判断した俺は、しかし雑草を捨てる気など毛頭なかった。雑草だけを集めたプランター作りに着手したのだ。

 だが、ふざけたことに雑草連中は弱いのであった。どんどん指で抜いて、どんどんプランターに植え込むのだが、すぐにしなびる。

 2日目からはシャベルを使うことにした。丹念に根から持ち上げて抜き、へたり込む雑草には添え木までした。それでも雑草どもはしなだれた。何が雑草だ!強さが身上ではないのか!

 本末転倒、というフレーズがしきりと脳裏に浮かんだ。にもかかわらず、以来俺は雑草移植に余念がないのである。

 ここしばらく、俺の園芸への情熱は雑草天国の完成に注がれそうだ。

(2005/5/11)

イラスト いとうせいこう・作家

1961年、東京生まれ。小説など活字のほか、映像、音楽、舞台など幅広い表現活動を展開しており、都会に住みながら主にベランダで植物を楽しむ「ベランダー」としても知られる。


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