懸賞サイトは朝日マリオン・コム-懸賞 プレゼント、懸賞 応募、懸賞 旅行
2005.6.8(水)更新
 いとうせいこうの自己流園芸ベランダ派

いとうせいこう タイトル

第56回 植木市報告、その1は姫スイレン
 今年も浅草では植木市が開かれた。6月末の土日にもう一度開催されるわけだが、だからといって鉢の購入を控えてはいられない。

 観音裏の道に沿って両側にびっしりと鉢が並ぶ。今年5月の特徴は柑橘(かんきつ)類の多さで、レモンやらデコポンやらシークワーサーやらがあちこちに見受けられた。

イラスト
題字と季語イラスト・上田みゆき
 それはともかく、俺(おれ)が買った植物は、全部で12種類。これからしばらく、その新規参入組の紹介を続けることになりそうだ。

 まずトップバッターを姫スイレンとしよう。

 俺はこれまで何度も蓮(はす)やスイレンに挑戦し、その度に失敗を繰り返してきた。彼らを育てるには水の上手な管理が必須で、これが非常に難しいのである。したがって、この数年はどんなに欲しくても、歯をくいしばって我慢してきた。

 ところが今年、いつものごとく歯をくいしばって姫スイレンを見つめる俺に、屋台のおやじが甘い言葉をささやきかけたのだった。「メダカと一緒に育てな」

 俺は激しく動揺した。なぜなら、実際俺はベランダでメダカを飼っていたからだ。なぜ、おやじはその事実を知っているのか。メダカを飼いそうな顔というものが存在するのだろうか。

 ぼうぜんとしている俺に、おやじは追いうちをかけてきた。

 「メダカがいれば、水が自然に動くでしょ。スイレンは素焼きの鉢に入れて、沈めとけばOK。あ、タニシもいれば掃除不要ね」

 おやじはもはや霊媒師の域に達していた。俺の水槽には、水草についてきたタニシが発生していたのだ。タニシを発生させやすい顔というものもあるらしい。

 人を見抜く達人の前で、俺は長年の禁止令を解かざるを得なかった。姫スイレンを買った俺は、家に帰ってから早速素焼きの鉢を出してきて入れ替え、水槽の中に沈めた。今度こそうまくいく気がした。

 が、数分後、俺は飛び上がった。タニシが絶滅しているのに気づいたからだ。

 急いで植木市の現場に戻り、金魚屋の屋台を俺は訪ねた。タニシが2匹1組で100円だった。俺はタニシごときをわざわざ買い足すことになったのだった。

 おそらくあのおやじは、タニシ絶滅まで見抜いていたに違いなかった。その上で、金魚屋との連携プレーを画策したのではないか。

 植木市おそるべし。俺はすべてを知られている。

(2005/6/8)

イラスト いとうせいこう・作家

1961年、東京生まれ。小説など活字のほか、映像、音楽、舞台など幅広い表現活動を展開しており、都会に住みながら主にベランダで植物を楽しむ「ベランダー」としても知られる。


>>バックナンバー

第55回 決して鬱蒼とはしていないのです(2005/6/1)
第54回 アヤメという反重力の娯楽(2005/5/25)
第53回 ライムに関する1年後の告白(2005/5/18)
第52回 雑草天国への飽くなき情熱(2005/5/11)
第51回 世界の法則に逆らうミョウガ(2005/4/27)
第50回 あんず授粉に関するあり得ない奇跡(2005/4/20)
第49回 ニッキの“蕾”をめぐるやきもき (2005/4/13)
第48回 あんずへの七日間大作戦 (2005/4/6)
第47回 先祖返りする植物の力 (2005/3/30)
第46回 春を告げる訪問者 (2005/3/23)
第45回 欲を罰されたブロッコリー収穫 (2005/3/16)
第44回 ゴールデンモンキーの到来 (2005/3/9)
第43回 俺を励ましたネコヤナギの光 (2005/3/2)
第42回 枯れ死んでいたはずのボケが…… (2005/2/23)
第41回 植えかえ人生への1本の否定 (2005/2/16)
第40回 園芸派自己流ベランダでもOK (2005/2/9)
第39回 カリンの実との気まずい再会 (2005/2/2)
第38回 花咲じいさんではなかったと知る時 (2005/1/26)
第37回 1月咲きの男 (2005/1/19)
第36回 世界の苦しみとブロッコリー (2005/1/12)
第35回 「初忘れ」のおめでたい克服 (2005/1/5)
第34回 師の教えに背いた罰 (2004/12/15)
第33回 師と選んだシャクナゲは (2004/12/8)
第32回 サザンカをめぐる一進一退 (2004/12/1)
第31回 ベランダー路上派に愛を込めて (2004/11/24)
第30回 苦手は“苞が花に見える植物”! (2004/11/17)
第29回 皆さん、お便りありがとう! (2004/11/10)
第28回 リンドウと俺の奇跡的な関係 (2004/10/27)
第27回 世紀の植物、「頭の良くなる花」! (2004/10/20)
第26回 ようやく落ち着いたアジサイ (2004/10/13)
第25回 四方八方に巻き付いたゴーヤの最期 (2004/10/6)
第24回 ダンゴムシたちの勇敢な旅 (2004/9/29)
第23回 大切な一夜に咲いた月下美人 (2004/9/22)
第22回 秋のタイムはウキウキ式土器 (2004/9/15)
第21回 天に向かって伸びない呪い (2004/9/8)
第20回 突然思い出した懐かしいイチジク! (2004/9/1)
第19回 ペットに近いツル性植物との日々 (2004/8/25)
第18回 花は血の流れない生贄である (2004/8/11)
第17回 収穫という名のアイデンティティー (2004/8/4)
第16回 朝顔のない、劣悪な都会の夏 (2004/7/28)
第15回 水だけやっても脱水症状 (2004/7/21)
第14回 咲かないダチュラと許せない虫 (2004/7/14)
第13回 枯れゆくスパルタ学園の新入生たち (2004/7/7)
第12回 小鳥たちの無自覚なプレゼント (2004/6/30)
第11回 すぐに根がつき、鉢植えになる「ノッポ」  (2004/6/23)
第10回 同志よ! ベランダに好物件などない! (2004/6/16)
第9回 植木市で珍品ゲット 俺は陶酔した (2004/6/9)
第8回 痛恨の不注意、アマリリスの墓標 (2004/6/2)
第7回 ベランダーの腕試される走り梅雨 (2004/5/26)
第6回 二つのマツリカの二つのはかなさ (2004/5/19)
第5回 母が勧める剪定でいい花咲いた (2004/5/12)
第4回 藤の機嫌を直した引っ越し (2004/4/28)
第3回 「特売品」は素早い対応が肝心なのだ (2004/4/21)
第2回 桜の花は下を向いて咲くのだ (2004/4/14)
第1回 「ベランダー」に福音の春が来た (2004/4/7)


サイトマップ | 会社案内 | 朝日マリオン・コムとは | 姉妹メディア | 会員規約 | 個人情報・著作権
asahi-mullion.comに掲載の記事や情報、写真の無断転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。
Copyright 2010 Asahi Mullion 21. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.