今年も浅草では植木市が開かれた。6月末の土日にもう一度開催されるわけだが、だからといって鉢の購入を控えてはいられない。
観音裏の道に沿って両側にびっしりと鉢が並ぶ。今年5月の特徴は柑橘(かんきつ)類の多さで、レモンやらデコポンやらシークワーサーやらがあちこちに見受けられた。
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| 題字と季語イラスト・上田みゆき |
それはともかく、俺(おれ)が買った植物は、全部で12種類。これからしばらく、その新規参入組の紹介を続けることになりそうだ。
まずトップバッターを姫スイレンとしよう。
俺はこれまで何度も蓮(はす)やスイレンに挑戦し、その度に失敗を繰り返してきた。彼らを育てるには水の上手な管理が必須で、これが非常に難しいのである。したがって、この数年はどんなに欲しくても、歯をくいしばって我慢してきた。
ところが今年、いつものごとく歯をくいしばって姫スイレンを見つめる俺に、屋台のおやじが甘い言葉をささやきかけたのだった。「メダカと一緒に育てな」
俺は激しく動揺した。なぜなら、実際俺はベランダでメダカを飼っていたからだ。なぜ、おやじはその事実を知っているのか。メダカを飼いそうな顔というものが存在するのだろうか。
ぼうぜんとしている俺に、おやじは追いうちをかけてきた。
「メダカがいれば、水が自然に動くでしょ。スイレンは素焼きの鉢に入れて、沈めとけばOK。あ、タニシもいれば掃除不要ね」
おやじはもはや霊媒師の域に達していた。俺の水槽には、水草についてきたタニシが発生していたのだ。タニシを発生させやすい顔というものもあるらしい。
人を見抜く達人の前で、俺は長年の禁止令を解かざるを得なかった。姫スイレンを買った俺は、家に帰ってから早速素焼きの鉢を出してきて入れ替え、水槽の中に沈めた。今度こそうまくいく気がした。
が、数分後、俺は飛び上がった。タニシが絶滅しているのに気づいたからだ。
急いで植木市の現場に戻り、金魚屋の屋台を俺は訪ねた。タニシが2匹1組で100円だった。俺はタニシごときをわざわざ買い足すことになったのだった。
おそらくあのおやじは、タニシ絶滅まで見抜いていたに違いなかった。その上で、金魚屋との連携プレーを画策したのではないか。
植木市おそるべし。俺はすべてを知られている。