予告した昼顔の話だ。
俺(おれ)は5月中に朝顔、夜顔を手に入れ、こうなればあとは昼顔だけだと考えた。
我がベランダに「朝・昼・晩」と顔≠勢ぞろいさせたくなったのである。
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| 題字と季語イラスト・上田みゆき |
ところが、植木市で目を皿のようにしても、昼顔は見つけられなかった。家の近くにある花屋をのぞいても、昼顔はなかった。
ポーカーで揃(そろ)いのいい手を作れなかったような失望を感じつつ、俺は顔の勢ぞろい≠あきらめることにした。「朝・晩」のワンペアで満足すべきだった。
だがしかし、である。6月の中頃、サフィニアの鉢からニョロニョロと細いツルが伸び出してきたのだった。どう見ても、それはサフィニアの一部ではない。
ツルの途中にやがて葉がついた。それはハートの形をしており、いかにも昼顔的なのである。まさかと思ったが、一応俺は朝顔などを育てる時に使う格子状の補助器具をサフィニアの鉢に立ててみた。
すると、ツルは格子にからみついて這(は)い登り、昼顔的な葉をさらに増やしながら、ある日そっけないピンクの花をつけたのである。
完全に昼顔であった。
欲しかった昼顔がなぜ突然出現したのか、俺にはまるで理解出来なかった。
鳥が種を運んで来るようなベランダではない。植え替え前のサフィニアの苗に混ざっていたのなら、もっと鉢の中心部から飛び出ていなければおかしい。
とすれば、植え替えた時の土に入り込んでいたと考えるしかないのだが、俺は植え替え用の土を大鉢にためて使っているので、ここ一年ほど新しい土を導入していないのだった。その土の中に昼顔の種が隠れていたのなら、去年も発芽していなければ筋が通らない。
というわけで、結論としてはあり得ないことが起こった≠ニいうしかないのである。「朝・昼・晩」のスリーカードは、奇跡的に出来上がったのだ。
このようなとき、ベランダーはどういう態度をとるべきか。執拗(しつよう)な科学的解明を続けるのか、超常現象を信じて神に感謝するのか。
黙って水をやる、というのが正解だと思う。
植物と共に暮らしていると、理解しがたいことはいくらでも起きるのである。
我々はその度に驚き、ほほ笑み、首をかしげながらもひたすら水をやるのだ。