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2005.12.14(水)更新
 いとうせいこうの自己流園芸ベランダ派

いとうせいこう タイトル

第81回 冬にもまだまだシシトウ
 シシトウの話はこれで3度目になる。

 以前は収穫したシシトウと、スーパーで買ったシシトウから種を取り、植えてみたことを報告した。どちらも芽を出したのだった。

イラスト
題字と季語イラスト・上田みゆき
 だが、俺(おれ)の育て方が悪いのか、新しいシシトウはやがて萎(な)えてしまった。いまだ元気なのは、結局最初の1本のみだ。

 とはいえ、この1本がやはり素晴らしいのである。冬になった今日でも、まだ実をつけてやまないのだ。

 夏から秋、そして冬を通して実がなり続けるとしたら、当然春にも実はつくだろう。一年中、ひっきりなしである。休む暇なく実の生産が行われるとは、にわかには信じがたい。奇跡の植物と言っていいと思う。

 ただし現在、その実は赤い。盛夏にはほとんどが緑色で、つやつやしていた。ごくたまに赤く変色するものがあって、突然変異だと思っていたのだが、秋を迎えるあたりからその赤い実がぐんと増えてきた。そしていまや、実という実が赤いのである。

 長い間、俺は事態の意味をつかみかねていた。もはや突然変異とはいえなかった。気温の降下にしたがって、シシトウの実は赤くなるのだ。

 それが紅葉だと思い至ったのは、つい先週のことである。モミジの鉢の調子が悪く、葉が枯れぎみなのに心をいためていた俺は、同じ視界にシシトウの実の赤さをとらえたのだった。

 モミジは赤くならない。シシトウは赤い。この単純な対比を、俺はそれまでずっと結びつけて考えていなかった。気づいてみれば、まことにシンプルな結論であった。シシトウこそが、我がベランダに唯一の紅葉を実現していたのだ。

 濃い緑の細い葉が茂る中に、点々と真っ赤な実がなる様子を、俺はがぜん風流な気分で眺めるようになった。紅葉だと気づくまで、シシトウを収穫の対象としか考えていなかった俺は、ここにきてやつの美を堪能するようになり、せわしく実をとることをやめた。

 赤い実は放っておけばしわしわになる。しかし、空気の冷たいベランダでは、その滅びの姿もまた一興である。横には艶(つや)めいた新たな実がなり、栄枯盛衰の感さえあって味わい深い。

 シシトウを俺は再度おすすめする。こんなに楽しみの多い植物は珍しい。

(2005/12/14)

イラスト いとうせいこう・作家

1961年、東京生まれ。小説など活字のほか、映像、音楽、舞台など幅広い表現活動を展開しており、都会に住みながら主にベランダで植物を楽しむ「ベランダー」としても知られる。


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