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連雀町辺り(3)

 連雀町(現在の神田淡路町・神田須田町)へそばを食べに行く客は、神田まつや派とかんだやぶそば派の二派に分かれるという。

 
昔ながらの上がりかまち。下町情緒が漂う、かんだやぶそば
(写真・横田正大)

 私は、1人か2、3人までのときは、まつや。それ以上の多人数のときは、やぶということにしている。

 やぶそばは、日本庭園風のアプローチから店内まで、ゆったりと余裕のある店づくり。
 明るいうちなら、ガラス戸の外の庭の植え込みなどをながめながら食事ができるのもありがたい。

 また、注文を受けたときの帳場からの「せいろ1杯わさびいもが付きまーす」といった独特の掛け声を聞くと、客の自分が、なにか芝居の登場人物の一人にでもなったかのような、いい気分がしてくる。

 あるとき、このやぶそばの座敷で友人たちとゆっくりと酒を飲み、そばをたぐっていると、隣の品のいい老夫婦とおぼしき紳士から話しかけられた。
 このあと、どこへ行くのかというご下問である。

 別に考えていない、と答えると、「酒を飲んだあとは、ちょっと甘いもので仕上げる。私らはいつも近くの竹むらへ寄るがな」とおっしゃって席を立った。(日本酒の後に甘いものかあ)と友人たちと顔を見合わせたが、なにか飲食の奥義の一端を示されたような気もしたので、たしかにすぐ近くではあるしと、竹むらへと足を向けた。
 店に入ると、例の紳士がすでにいて「やあ、いらしたか、感心、感心」と、うれしそうに迎えてくれた。

 そば屋で酒を飲み、その後に、1分ほど歩いて、ぜんざいや汁粉をのむ。
 こんなことが、さほどの違和感もなく、すっとできたのも、この古町、連雀町ならではのことだからではないだろうか。

 竹むらもまた、今は、ほとんど見られなくなってしまった、じつに美しい木造の店構えなのである。
 店の前まで来ると、甘党でなくても、入らなければ後悔する気がしてくる。

坂崎 重盛 (エッセイスト・題字も)



2002年10月16日付 朝日新聞(東京本社)「マリオン」から
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