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谷中(5) 三崎坂を下る

 三崎坂を谷中霊園方面から不忍通りに向かう。左側、塀の前におびただしい数の鉢植えが並べられている。この寺が永久寺

 このあたりから三崎坂は下りになる。それにしてもこの界隈(かいわい)の寺の多さよ。

 寺によっては「関係者以外立入禁止」の札を立てている所も少なくない。京都だったら拝観料を取るところだろう。私は寺によっては有料でもいいと思っている。

三崎坂の中ほど、達筆な山門の額に引かれて本堂をのぞく……
(写真・横田正大)

 ところで寺には当然、墓がある。世の道楽の一つに掃苔(そうたい)趣味というものがある。苔(こけ)を掃(はら)う、つまり、名を成した人の墓を巡って楽しむ。

 谷中はそんな人たちのための宝庫だが、この三崎坂にも、永久寺の仮名垣魯文や、少し先右手の全生庵の山岡鉄舟、そして近代落語の祖ともいわれる三遊亭円朝の墓がある。

 全生庵の並び少し先の大円寺は浮世絵愛好家には親しい「笠森おせん」ゆかりの寺である。茶屋の娘・おせんは江戸の錦絵師・鈴木春信が描いて、古今不滅の美人となった。

 絵師といえば先の全生庵には、怪談話を得意とした円朝が集めた柴田是真や月岡芳年、また円山応挙といったお化け絵を手がけた絵師の作品が今も残る。
 このお化け絵は円朝忌の8月11日前後に毎年公開されている。谷中の人気イベントの一つである。

 この全生庵のように歴史や文化と縁の深い寺には山門の前に案内板が配置されている。この案内板を読むだけでもかなりのエネルギーがいる。散歩はまた、体力と気力の勝負である。

 すでに記したが寺によっては部外者の門内進入を禁じる所もある。しかし、その山門のデザインを見るだけでもなかなか興味ぶかい。そして、禁じられている奥深い境内への参道をのぞき見ることも。

 この三崎坂、お寺ばかりで抹香くさくって、という人には、大円寺少し先から心はずむ商店が軒を並べる。その紹介は次回に。

→ 谷中(6) 三崎坂〜団子坂 へ

坂崎 重盛 (エッセイスト・題字も)



2003年1月22日付 朝日新聞(東京本社)「マリオン」から
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