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谷中(7) 上野公園から

 今度は谷中から根津に向かって歩いてみたい。ちょっとアングルを変えて、冬の上野公園から出発しよう。
 冬の公園は冬ならではの寂しい感じがして、これはこれでいい。とくにここは葉を落としたケヤキの樹形が美しい。

いらかの波が美しい下町。旧吉田屋は上野桜木交差点の下町風俗資料館付設展示場にある
(写真・横田正大)

 東京国立博物館の前を、東京芸術大学に向かって歩いてゆくと、道は突き当たり、右手斜め向かいにポツンと、いかにも瀟洒(しょうしゃ)な1軒の茶店風の店が見える。
 ここが和菓子の桃林堂。建物の雰囲気、店内に泉鏡花が腰かけてお茶を飲んでいても不思議ではない感じ。
 ハス、ニンジン、洋梨、オレンジなどの、野菜・果物を蜜漬けにした五智果と小さめのかわいい鯛焼(たいやき)が人気。

 この桃林堂の左脇の細い道は、散歩心をそそるものがある。地番は上野桜木一丁目。この道を行こう。

 芸大が近いせいだろう。そこはかとなく芸術的な雰囲気のただよう小径(こみち)。

 道に入ってすぐ、浅尾拂雲堂なる看板が出ている建物がある。ガラスごしにのぞいてみると額装店のようである。

 この先左手に懐石・花村ペペ・ル・モコと和と洋の食の店が並ぶ。
 美術館へ行った後、ちょっと足を延ばして、という場合、先の桃林堂で、抹茶と菓子のセットでリフレッシュするか、このペペ・ル・モコの2階で軽くワインを飲んだりする。
 ペペ・ル・モコの向かいに芸術喫茶と銘うつカフェがあるが、なぜか縁なく、いつも休みとぶつかる。

 この道のすぐ先は、明治の酒屋の姿を残す旧吉田屋が道沿いに建つ言問通りとなる。  桃林堂からここまで2分程度。でも、この道は芸大から谷中、そして根津に至る妙に気になる道なのだ。
 惜しむらくは車の通りの激しいこと。こんな道こそ人があるくためだけの空間であったら、と思わずにはいられない。

→ 谷中(8) 上野桜木周辺 へ

坂崎 重盛 (エッセイスト・題字も)



2003年2月5日付 朝日新聞(東京本社)「マリオン」から
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