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神楽坂(1) 坂下周辺

 しばらく谷中周辺が続いたので、ここらでぐっと趣向を変えて、深川あたりでもと思ったが、どうも気分がちがう。
 あの界隈(かいわい)はやっぱり夏かと思い直し、春の神楽坂へ。
 まずは桜並木と水景の飯田濠(いいだぼり)から。JR飯田橋駅の西口を出て道を右に下りてゆく。

春の陽光を浴びて、ボートや水上カフェで満開の桜を楽しむ人たち。3日撮影 
(写真・横田正大)

 信号は神楽坂下交差点。お壕に沿って左に行くとCANAL CAFE(カナル・カフェ)の看板に気づく。
  桟橋を思わせる木のステップをトントンと下りてゆくと、初めての人はまず歓声をあげるだろう、満々と水をたたえるお濠の光景と瀟洒(しょうしゃ)なカフェ。  ここでの夜桜見物は絶対予約が必要。しかし、昼間、春の陽(ひ)ざしを浴びながらの読書もいい。貸しボートはもう始まったかしら。

 神楽坂散歩を楽しみたい人は、信号を神楽坂通りにそって上ってゆく。

 甘党の人なら、すぐ右側、神楽小路に入る手前の老舗・紀の善へ、となるだろうが、いまだに原稿手書き派の人間にとっては、山田紙店は素通りできない。
 地下鉄飯田橋駅B3出口にぴったりくっつくようにある文房具店だが、ここの原稿用紙がいい。
 川端康成も愛用したといわれる、枡目(ますめ)のたっぷりした感じがいい。

 さて、神楽小路、この横丁がまたなんともレトロっぽい雰囲気。
 しかし、その向かいの横丁にも気を引かれる。

 夕方の頃には東京理科大の学生さんがゾロゾロ出てくる通りなのだが、この道ぞいには、その理科大の先生もよく立ち寄るという焼き鳥の鳥精、また、その先には、神楽坂屈指の居酒屋と評判の、お腹袋(おふくろ)がある。
 このお腹袋、店の名ものれんの字も小さん師匠によるものという。
 常磐津の師匠のきりもりする店で、酒の肴(さかな)がうまく、また店内の邦楽世界的めでたさがうれしい。

 お濠と原稿用紙と邦楽、これこそ神楽坂の入り口。

→ 神楽坂(2) 神楽小路周辺 へ

坂崎 重盛 (エッセイスト・題字も)



2003年4月9日付 朝日新聞(東京本社)「マリオン」から
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