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千束周辺(5) 吉原界隈

 千束通りの浅草4丁目から5丁目、つまり、この通りを横切る小松橋通りから土手通りに至る道の、左の横丁を行けば、いずれも花園通りにぶつかる。
 花園通り? そう、その先は「秘密の花園」・吉原という歓楽地のある通りである。

 江戸時代から続く遊興の街・吉原が今日も残る。かつては浅草新吉原・江戸町、伏見町、堺町、角町、揚屋町、京町とした遊郭が、今日は一括してほぼ千束4丁目に属する。
 今日でこそ吉原は一部男性のためのワンダーランド、特殊な街となっているが、江戸時代は華やかな文化の発信地でもあった。
 浮世絵、小説、歌舞伎、そして落語などの世界で、どれだけこの吉原が舞台となったことか。

 そして今、千束4丁目界隈(かいわい)。目的なくしてこのワンダーランドに踏み込むのには、かなり勇気がいる。
 同じ遊郭でもアムステルダムの「飾り窓のある街」などは、堂々と女性観光客も興味ぶかげにゾロゾロと歩いているが、この吉原はまだ、そんな雰囲気ではない。
夜のとばりが下りるころ、花園通りの角から、吉原のにぎわいを垣間見る 
(写真・横田正大)

 もちろん歩いて物騒というわけではないだろうが、単なるひやかしではお店の営業にさしさわりがあるのでは、と気がひける。
 せめて花園通りあたりから「仲(なか)」の光景をのぞくとか、まだ日の高い明るいうちに用事があるかのような顔をしてこの一区画を通り過ぎる。

 しかし、この吉原の周辺、土手通りの日本堤側には、天ぷらの土手の伊勢屋や「けっとばし」つまり馬肉料理の桜鍋中江といった、店構えを見るだけでも昔の吉原がしのばれる老舗が残る。

 酉の市のように、沸き立つようなにぎやかな千束もいい。また、日頃の静かな街もいい。

 吉原のさらに北に隣接するのは、樋口一葉の「たけくらべ」の街、竜泉である。

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坂崎 重盛 (エッセイスト・題字も)




2003年11月26日付 朝日新聞(東京本社)「マリオン」から
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