明治の面影にこだわり
大型連休後の5月9日、「馬車道」に例年、行列ができる。ここはアイスクリームの発祥の地だ。日本アイスクリーム協会などによると、1869(明治2)年、地元の氷水店主だった町田房蔵氏が、日本人で初めてアイスを作り、売り出したのが始まりとか。その後、1964年に同協会がこの日を「アイスクリームの日」に決めた。行列は、この日を記念し、馬車道商店街協同組合が毎年無料で配布するカップ入りアイスが目当て。サラリーマンやこの日を待ち望んでやって来るファンらによって、5千個があっという間になくなるほどの人気ぶりだ。
アイスを作っているタカナシ乳業は「大勢の人に食べてもらいたいですね。横浜からアイスの歴史が始まったということを感じてほしい」と、今年のイベントにも気合十分だ。
「馬車道」の名は、横浜開港時に外国人を乗せた馬車が行き交ったことによる。そこかしこに、アイスだけでなくガス灯や写真館といった様々な発祥記念碑や重厚な歴史的建造物が建つ。通り沿いのショーウインドーに古びた建物と従業員が写るセピア色の写真を飾った平安堂薬局がある。組合の副理事も務める店主の清水良夫さん(57)は、震災や空襲で失った明治の面影をこの通りに取り戻そうと、ほかの店主らと取り組んできた。2年前には通りをリニューアル。舗道にれんがを敷き、約80年ぶりにガス灯を復活させた。「雰囲気を楽しむだけでいいから、たくさんの人にこの道を歩いてほしいね」。活動は古い写真を飾り続ける清水さんなりのこだわりだ。
そんな馬車道にも新しい息吹がある。昨年、横浜と元町を結ぶみなとみらい線(MM線)が開通。通り沿いの県立歴史博物館学芸員の丹治雄一さん(32)は「MM線ができてから通りをそぞろ歩きする観光客が増えて、館の利用者も増えました」。また、通りの端にある旧富士銀行横浜支店の建物を使い、今春開校した東京芸大大学院は国立大初の映像研究科が注目を浴びている。この通りがまた新たな文化の発信地になるのかもしれない。
(山本由依子)