800年の街に夏の風物詩
若宮大路には「若宮大路幕府」など、鎌倉時代の政治の中心地が置かれていた。由比ケ浜から鶴岡八幡宮まで続くこの通りには、各史跡や風情ある土産物店などと、湘南を感じさせるオシャレな民家やスーパーなどが800年の歴史の歩みの中で混在、独特の雰囲気をつくりだしている。
その通りの玄関口、由比ケ浜と材木座を舞台にした夏の大イベントに鎌倉花火大会がある。花火製作と演出を30年ほども担当しているのは、千葉県の花火会社「国際煙火」だ。祖父が社長をしていた当時から親子三代にわたってかかわる安秀喜専務(35)は「鎌倉は特別な場所」と言う。
「鎌倉の花火は請け負う大会約40カ所の折り返し地点。『ここで半分』とほっと一息つく。同時に、花火師としての喜びも味わえる。湾の中なので、お客の声が反響するんです」。当日の2900発はスタッフが1年前から一つひとつ手作りで準備したもの。一発一発に大歓声が聞きたいとの思いがこもる。そんな高安さんにとって、通りは「お客さんを会場の浜辺まで運んでくれ、翌朝には片づけで疲れ果てた自分を駅まで運んでくれる」感慨深い道なのだ。
通り沿いに店を構える「林屋材木店」の社長・林禎一さん(89)も、長い間この若宮大路を見て過ごしてきた。1904(明治37)年に創業。当初の建物は、関東大震災で全壊、周囲の商店も焼失したという。祖父の世代が、倒壊した鶴岡八幡宮の舞殿をはじめ、ほぼ今の街並みを造った。
「道を行く観光客や住民の文化人、彼らに特別な注意を払ったことはない。みんな生活の一部。いつもそこにあった」と、淡々とした口ぶりに愛着がにじむ。
「若宮大路と鶴岡八幡宮は観光客に親しまれると同時に、住民にとっては『日常の世界』です」とは境内で出会った八幡宮の神職。袴に身を包み穏やかに笑う彼に、若宮大路で一番好きな情景を聞いてみた。「朝もやたなびく早朝の通りとお宮。境内にかわせみが飛ぶさまですね」
(田 舞)