ヒップホップに魅せられ
斜めにかぶった帽子に、大きめのTシャツとパンツ、ひときわ体格がよく見える格好の若者たちが吸い込まれるように入っていく。ヒップホップ専門のレコード店「マンハッタンレコード」だ。
若者の街、渋谷。中でもオルガン坂と交わる「井の頭通り」周辺は、90年代半ばから「ヒップホップの聖地」と言われるようになった。
もともと70年代、米国ニューヨークの貧しい地区で黒人の若者たちが生んだ文化で、言葉を紡ぐラップや落書きアート、ダンスなどそれぞれの表現手段で、抑圧への抵抗と、金銭には頼らない楽しみを主張した。その魅力は世界に広まり、日本でも映画や、若者が集まって踊るクラブで流れたダンス音楽をきっかけに、火がついた。
「マンハッタン」は90年代初め、ダンス音楽のはやりを察知してDJ仕様のレコードに特化し、ここに移転してきた人気店だ。
店内に入ると、壁面にずらりと並ぶレコードと、DJブースから流れるビートの大音量に高揚感が増す。「クラブの臨場感をねらったんですよ」と、バイヤーの斉藤拓麻さん(25)。10代から聴き始めて、アルバイトで同店に入り、4年前から商品の買い付けを任される社員になった。現在、この付近にはレコード店が50ほど並ぶ。各店の色を作るのが、斉藤さんたちの仕事。「いろんな店があるから、盛り上がってくるんでしょうね」。客層も広がり、DJやその予備軍の他に、趣味でレコードを回す人も多いという。通り沿いの建物の壁は、落書きやポスターでびっしり。知り合いに会えば、軽く肩を抱き合ってあいさつ、情報交換が始まる。
地方から来る人も多い。ここで出会った仙台出身の男性(20)に魅力について尋ねると、「直感的な格好良さでしょ」と即興のラップが始まった。
♪実際に はまってみなきゃわかんねぇ オレらは 文化(カルチャー)を生きてんだ
(市川綾子)