大人の文化の薫り息づく
「銀座で一番いい男、いい女が歩く通りだった」
ここに店を出して25年になる「わいん ばー・ギンザ」のオーナー臼井磐さん(62)は目を細めた。年季の入った扉を開けると地下へ階段が続き、アールヌーボーの絵が出迎える。「コリドー」とは回廊を意味するフランス語。「パリの小粋な通りのように、というのが最初の精神だった」。通りの西側は高速道路のガード下に店が並ぶ。現在は9割以上が飲食店だが、80年頃までは1階の8割は毛皮や和装小物店、画廊などが占めた。臼井さんは「文化薫る銀座」を守りたいと、月に一度ジャズから落語まで楽しめる会を開く。
「百歳の現役ママ」有馬秀子さんが2年前に亡くなってからも、ママを慕ってバー「ギルビーA」を訪ねる人は多い。開店以来50年以上使われてきたカウンターの指定席には写真が飾られている。4年前まで働いていた女性が変わらなさに驚くと、「何を変えればいいんですか?」と10年以上勤めるバーテンダーの中川福市さん(55)が笑って答えた。この店では時間がゆっくり流れている。従業員へのしつけが行き届いていると評判で、一部上場企業の社長の娘を預かったことも。ママが店に来ると客までも背筋をピンと伸ばした。
通りの向かいにあるシャンソンバー「蛙(かえる)たち」。会社役員の吉川伍郎さん(58)は、シャンソン好きだったわけではなかった。ただ日常にはない文化的な雰囲気にひかれて、以来30年近くになる。「一人で来ても一人にはならない」常連や歌手との関係が通い続ける理由だ。「蛙たち」は歌手でオーナーの横井公二さん(65)が、40年前に仲間と始めた店。歌手が接客もし、まるで自宅に招かれたよう。「お客様とは今では親類のような関係。一緒にこの店を作っている」。
上質な文化やマナー。そんな銀座らしさを守る店と客。変化著しいコリドー街に、昔からの銀座が息づく。
(石坂亜子)