ジャズ奏でる街のパワー
七五三ののぼりが神社を飾る10月最終週。阿佐谷・神明宮に一台のクレーン車が入る。ジャズピアニストの山下洋輔さんが演奏するピアノを神楽殿に入れるためだ。
ここが「ジャズストリート」の会場のひとつ。公演当日はかがり火が焚(た)かれ、それをバックに山下さんが演奏する。
同宮の権祢宜(ごんねぎ)・成田秀穂さん(48)は言う。
「神楽がジャズであってもいいでしょ。街のお祭りに場所を提供するんです」
詩人の谷川俊太郎さんが著書で南阿佐ケ谷駅から自宅までを「定義」したり、作家のねじめ正一さんが活動したり、阿佐谷は文化を感じさせる街と知られる。
しかし95年、そんなイメージをうち崩す事件が起こる。地下鉄サリン事件。阿佐谷には当時、オウム真理教の道場があり、マスコミに大々的に報道された。
「街のイメージアップを図りたい」という声が住民から相次いだ。
「自分たちの好きなジャズで街おこしをしてはどうだろうか」。町内会の役員、商店主たちがすぐに実行委員会を結成。1年目は区民センターなど14会場でプロやその卵らが演奏した。
翌年からは、場所を提供したい、と申し出る企業や団体が出てきた。信用金庫、焼き鳥屋、教会……。昨年は約500人が演奏し、2日間で2万人以上も集まった。「街に認められ始めたかな」。11年間実行委をまとめてきた会長の前田義之さん(64)はほほ笑む。
「外を歩いているミュージシャンを店内に招き入れ、一緒に演奏を始めることもあるんですよ」。Asagaya Cafeの上之原俊一さん(42)は今年も楽しみで仕方がない。北海道の音楽家が毎年、このカフェに演奏しに来るのだ。
都立杉並高吹奏楽部の音楽監督・五十嵐清さん(48)は今年初めて、生徒たちとストリート会場で演奏する。「いつも通っている道がステージになるなんて、生徒も僕も幸せですよ!」
(坂本悠子)