12匹に願かけて新名所
「馬券を買いに行く人や、受験生がよくお参りしているわね。開運たぬきが人気なのよ」と、毎朝欠かさず願かけたぬきを磨く渡辺美津子さん(78)が教えてくれた。たぬき通りで4代続く「渡辺眼鏡店」を営む渡辺さんは、「戦前は仲見世通りまで続く目抜き通りで、それは華やかだったの」と振り返る。
しかし、戦後の区画整理で通りは80メートルほどに短くなり、近隣の整備されたアーケードに客足は流れていった。すっかり寂れてしまった通りを立て直すべく、11年前にリニューアル。11基の街路灯の中ほどには、通りの名前にちなんだ「大黒たぬき」「夫婦たぬき」など、計12匹の願かけたぬきがまつられるようになった。
浅草の新名所として徐々に浸透し、今では観光客の姿も増えた。「シャッターを押してあげましょうか?」と、カメラを構えるカップルに、甚平姿の男性が声を掛ける。人懐っこい笑顔に下町の人情を垣間見て、ほっと心が和む光景だ。浅草で人気の観光人力車も、たぬき通りを日に50〜60台行き交うという。3年間、人力車を引く車夫、俥(くるま)うたさん(27)は、「通る度に隠れた名店を発見します。お客さんにも人気ですが個人的にも大好きです。老舗(しにせ)が多く、浅草ならでは」と語る。
毎月、願かけたぬきを参拝する人々に感謝を込めた縁日が開かれる。江戸時代のお茶屋のように、緋毛氈(ひもうせん)を敷いた床几(しょうぎ)で飲み物をいただく。2時間で500人もの人出があるのだそうだ。
「縁日の日は必ず天候に恵まれるの。浅草寺の観音様に守られているのね」と、毎月「皆勤賞」で準備に奔走する町田文子さん(61)。「インターネットで何でも買える時代だけど、私たちは手渡しする対応を大切にしているのよ」と続けた。
つくばエクスプレスの開通で訪れる人も増えた。3年ぶりに観光に来た、つくば市の高原強さん(29)は言う。「以前と変わらない雰囲気。また来る時まで保ち続けて欲しいです」
(嶋津 智子)