住民の思いが生きる道
「いらっしゃい」。週末、リュックをしょった年配のグループや、親子連れなど40人ほどの来訪者を、「みたか観光ガイド協会」代表の小谷野芳文さん(66)が笑顔で迎える。観光案内所「スペースみたか101」。今年8月、三鷹駅南口からすぐの、散歩道入り口のビル1階にできた。12月末まで試験的に開設中で、三つの市民団体が交代して観光マップの提供や名所を紹介する。そのうちの一つ、同協会は6年前に発足し、定年退職した男性や女性ら30人ほどがボランティアで名所案内をしている。
国立天文台や新選組・近藤勇の墓などに並んで多い問い合わせが、ジブリ美術館への行き方。近くに別ルートを走る美術館専用バスの乗り場もあるが、小谷野さんは「断然、散歩道を歩くことをお勧めします」。来訪者の約3割を占めるアジアからの観光客に対しても、道筋を英語で説明した資料を片手に、身ぶり手ぶりで奮闘する。
美術館まで歩いて20分。しゃれた標識やベンチが並び、所々に靴跡のタイルがはめ込まれた散歩道の傍らには、国の史跡・玉川上水が流れる。水路沿いのサクラなどの広葉樹は、季節ごとに表情を変える。山本有三の旧家を利用した記念館や太宰治の旧居跡など、文士ゆかりの地としても知られる。
有三記念館の裏庭に、深緑色の草が育っていた。環境省の絶滅危惧(きぐ)種に選定される「ムラサキ」だ。根の部分が染料や薬草として重宝され、かつて武蔵野一帯に群生したという説がある。幻のムラサキを市のブランドにできないか、と市民が「みたか紫草(むらさき)復活プロジェクト」を3年前に立ち上げた。約100人の会員が畑や自宅で育てるほか、市内の小学校で染め物教室なども開く。「夢は、上水沿いにかつての群生を取り戻すこと」と、プロジェクト会長の山縣(やまがた)哲治さん(51)。この草から名付けられた「むらさき橋」が散歩道の中ほどにかかる。いつか、この道で白い小さな花を咲かすムラサキが見られるだろうか。
(市川綾子)