微笑み似合う街づくり
大江戸線・麻布十番駅を出て、十番稲荷神社の前の交差点を渡り、「雑式(ぞうしき)通り」へ進む。豆菓子屋、せんべい屋……。どこか懐かしさ漂う店が並ぶ。流行の最先端、六本木ヒルズが目と鼻の先だとは思えない。
「週末は大変な混雑だけど、普段はまだまだ静かで落ち着いてますよ」と近くに住む若い女性が焼きたてのたい焼きを抱え、笑顔で帰って行った。
麻布十番通りとぶつかる所で、鮮やかな黄色の幾何学模様が印象的な像「太陽の微笑み」を見つけた。プレートにはベネズエラ共和国と書かれている。「微笑み」をテーマに周辺の大使館の協力で制作された像の一つで、商店街全部で12個ある。「親子」「時計」「スーツケース」など、「微笑み」から連想された個性あふれる作品が並ぶ。
更に進むと石畳の広場の一角に、ほほえみを浮かべ、遠くを見つめる少女の像が立つ。童謡「赤い靴」のモデルになった「きみちゃん」の像だ。
紳士洋品店「ローリエヤマモト」の山本仁寿さん(64)が商店街振興組合の広報部長をしていた時、「『赤い靴』とこの街は関係があるらしい」と住民から聞かされた。調べてみると、少女が外国に渡ることなく麻布十番の孤児院で9歳の生涯を閉じていたことがわかった。ゆかりの地に何か記念になるものを造りたいと思った商店街の人たちの働きかけで89年、多目的広場「パティオ十番」に像が造られた。しかし、それで終わりではなかった。
「像が出来たその日の夕方に、誰かがきみちゃんの足元に18円置いていったんです」。そこから始まった小さなチャリティーの輪は途切れることなく続き、間もなく1千万円に達する。ユニセフなどに全額寄付されている。「1千万は一つの区切りだけど、終わりじゃない。これからも世界の子どもたちのために役立つことができればいいなぁ」。店のガラス越しに見える「きみちゃん」を見つめて山本さんはほほえんだ。
(植田詩生)