川面に花舞い、笑顔咲く
目黒区内を流れる目黒川の全長は3.8キロ。その両岸に、829本の桜が植えられている。中目黒駅周辺の川幅は13メートルと狭いため、伸びた枝が川の中心で交わり、桜が手と手をつないでいるようだ。橋の上に立つと、桃色の天がいがかかっているようにも見える。
沿道には、マンションなどの間にカフェや服飾店が点在する。区の散歩コースでもあり、犬と歩く人やベビーカーを押すお母さんの姿もある。ここを歩くのが日課という清水実さん(82)と多仁子さん(78)夫妻は言う。「昔に比べて川はきれいになった。きれいだと、ごみも捨てにくいんじゃないでしょうか」
「きたない」「くさい」「(いつも護岸の)工事中」。戦後の工業化の波を受けた川は、十数年前まで「3K」と呼ばれたどぶ川だった。あまりによどみすぎていたため、「赤い金魚なら見えるかも」と冗談が言われたほどだ。都の水質調査でワースト2位という事実にショックを受けた住民たちは76年、「目黒川を豊かな生活環境にする会」(目黒川の会)をつくり、区に改善を訴えた。
「フェンスが高いと川に投げ捨てられたごみが見えない」。同会は護岸フェンスを低くしてほしいと要望し、区はそれを受け入れた。低ければ、ごみが住民の目に入る。人々の意識を川に向けた。区もまた都に働きかけ、合流式下水道の改善や維持用水の確保がかなった。「住民の後押しが力になった」と担当職員(46)は振り返る。
95年、新宿区にある落合水再生センターの高度処理水が流れるようになると、汚染の目安になる数値が場所によってほぼ半減し、きれいな水になると遡上(そじょう)してくるアユやハゼも見られるようになった。目黒川の会の事務局長、阿部芳子さん(72)は言う。「川は生きている。みんなが意識すれば、自然は取り戻せる」
沿道にカフェなどが並び始めたのは近年のことだ。住民だけではなく、若者の心も引きつけるようになった。もうすぐ、桜の花びらが川面を彩る。さらに多くの人がやってくる。
(秋山幸子)