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題字・イラスト 井沢洋二
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南風が吹いている。ちょっと地理に詳しい人なら分かる。
南よりの湿った風が吹いている。そこに気づく人は、気象予報士になる素質がある。
僕には海から吹き寄せる湿った南風の忘れられない景色がある。
僕が小学4年生まで過ごしたのは、神奈川県逗子市。相模湾からちょっとくぼんだ逗子の小さな入り江には、夏は海水浴場として賑(にぎ)わう1キロに満たない砂浜がある。
その砂浜を、逗子の観光パンフレットに載る<nーフマイルビーチと名付けたのは僕だ。あるテレビ番組でのコメントが、そのまま採用された。それが縁で、僕は現在、$子市PRスーパー・バイザーを務めている。
家は、入り江を見下ろす高台に今もある。梅雨入りを控えた今頃から夏の終わりごろまで、今にも雨が降り出しそうな灰色の空の下、湿気と潮気をふんだんに含んだ海風が吹き寄せる日がある。ムッと熱気を孕(はら)んだ風は、気まぐれに強弱を繰り返しながらうなりを上げて海から吹き上げてくる。
潮気のせいなのだろうか、対岸の景色は薄く霞(かす)んで見える。そんなモノトーンな景色の中に、子供の僕がいつも不思議な思いで眺めていたのが、漁港を見下ろす小山の上に湧(わ)く雲だった。
小山と同じ形に、むっくり湧き上がった雲は、少しずつ背を低くしながら風下へ流れてゆく。山の尾根伝いに距離にして2キロも雲は流れただろうか、山の上に開かれた葉山桜山団地の黄色い給水塔あたりまでたどりつくと消えて無くなった。
なぜ、湿った海風の日には小山の上に雲が湧くのだろう。
なぜ、浜に上陸した風は雲を生まないのだろう。
子供の僕はそんな疑問を抱きつつ、雲の端っこから顔を覗(のぞ)かせたり消えたりする給水塔を見つめていた。
海面を渡ってきた海風が、小山に行く手を阻まれれば上昇気流を生む。そして、上昇気流のあるところには雲が湧く、と教えてくれたのが、35歳ではじめた気象予報士の受験勉強だった。
逗子の懐かしい景色が僕を気象予報士にしたのは間違いない。