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題字・イラスト 井沢洋二
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額の汗を掌(てのひら)で拭(ぬぐ)って見上げた空には、怪しげな雲が、空の半分を埋めていた。遠い南の海から北上の機会を伺(うかが)う、台風の仕業に違いない。
しかし、ジョギングランナーにとって、夏の空に浮かぶ雲は有難(ありがた)い。直射日光を避けるために日陰を求め、いちいちコース取りする手間が省けるというものだ。
頭上にはお天道様がいるのに、どこかの雲から風が運んでくるのだろう、パラパラと細かな雨が落ちて来た。キラキラ光る雨粒は、蒸した空気に苦しむランナーの気持ちを和ませる。湿気と汗でぼんやりと霞(かす)んでいた脳裏に、′マ(きつね)の嫁入りなんて懐かしい言葉が、コンと浮かんだ。
「暗闇に並ぶ狐火(きつねび)を、花嫁御寮の行列の提灯(ちょうちん)に見立てて、狐の嫁入り」
′マ火とは人魂、鬼火と同じ怪発光現象のことだとか。辞書の記述はなんとも夏に相応(ふさわ)しい怪談模様だ。
「日が照っているのに、雨の降る天気」
もちろん、僕が思い描いたのはこちらの図。急に降り出す俄(にわか)雨に笠の用意もなく、肘(ひじ)を頭にかざして雨を凌(しの)ぐ仕草(しぐさ)から&Iかさ雨なんて呼び名もある。
「晴れているのに雨が降る様子は、嬉(うれ)しくもあり悲しくもある花嫁の心情を反映している」と狐の嫁入りを解説する人もいる。
でも、何で花嫁は狐なのだろうか。犬だろうが猫だろうが、花嫁は誰でもよさそうなものだ。
パラパラ、ポタポタ、ザーッ。細かい雨が、突然、一粒一粒を視認できるほど大きい雨粒となり、僕の素肌の腕をしっぺする。Tシャツにぶつかった雨粒は、滲(にじ)む汗と混ざり、瞬く間にシャツ全部を透かせてみせた。
見上げた空には、夏の光はすっかり姿を隠し、街全体が水しぶきの中に白く霞んでゆく。
先程までの日差しがまるで嘘(うそ)のような……、なるほど、狐にバカされたような気になった。
全身ずぶ濡(ぬ)れになって走るのは気持ちがいい。でも、夕立を楽しんだら、早めに引き上げるのが肝要だ。狐にバカされ、夏風邪ひいてはたまらない。