懸賞サイトは朝日マリオン・コム-懸賞 プレゼント、懸賞 応募、懸賞 旅行
2006.8.23(水)更新  石原良純のあした天気に
石原良純のあした天気に
ポタポタ、狐の嫁入り
題字・イラスト  井沢洋二
 額の汗を掌(てのひら)で拭(ぬぐ)って見上げた空には、怪しげな雲が、空の半分を埋めていた。遠い南の海から北上の機会を伺(うかが)う、台風の仕業に違いない。

 しかし、ジョギングランナーにとって、夏の空に浮かぶ雲は有難(ありがた)い。直射日光を避けるために日陰を求め、いちいちコース取りする手間が省けるというものだ。

 頭上にはお天道様がいるのに、どこかの雲から風が運んでくるのだろう、パラパラと細かな雨が落ちて来た。キラキラ光る雨粒は、蒸した空気に苦しむランナーの気持ちを和ませる。湿気と汗でぼんやりと霞(かす)んでいた脳裏に、′マ(きつね)の嫁入りなんて懐かしい言葉が、コンと浮かんだ。

 「暗闇に並ぶ狐火(きつねび)を、花嫁御寮の行列の提灯(ちょうちん)に見立てて、狐の嫁入り」

 ′マ火とは人魂、鬼火と同じ怪発光現象のことだとか。辞書の記述はなんとも夏に相応(ふさわ)しい怪談模様だ。

 「日が照っているのに、雨の降る天気」

 もちろん、僕が思い描いたのはこちらの図。急に降り出す俄(にわか)雨に笠の用意もなく、肘(ひじ)を頭にかざして雨を凌(しの)ぐ仕草(しぐさ)から&Iかさ雨なんて呼び名もある。

 「晴れているのに雨が降る様子は、嬉(うれ)しくもあり悲しくもある花嫁の心情を反映している」と狐の嫁入りを解説する人もいる。

 でも、何で花嫁は狐なのだろうか。犬だろうが猫だろうが、花嫁は誰でもよさそうなものだ。

 パラパラ、ポタポタ、ザーッ。細かい雨が、突然、一粒一粒を視認できるほど大きい雨粒となり、僕の素肌の腕をしっぺする。Tシャツにぶつかった雨粒は、滲(にじ)む汗と混ざり、瞬く間にシャツ全部を透かせてみせた。

 見上げた空には、夏の光はすっかり姿を隠し、街全体が水しぶきの中に白く霞んでゆく。

 先程までの日差しがまるで嘘(うそ)のような……、なるほど、狐にバカされたような気になった。

 全身ずぶ濡(ぬ)れになって走るのは気持ちがいい。でも、夕立を楽しんだら、早めに引き上げるのが肝要だ。狐にバカされ、夏風邪ひいてはたまらない。

いしはら・よしずみ 俳優・気象予報士。62年神奈川生まれ。84年デビュー。舞台、映画、テレビで活躍中。97年気象予報士に。「FNNスーパーニュース」でお天気キャスターを担当。

(2006年8月23日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

asahi-mullion.comトップページへ
サイトマップ | 会社案内 | 朝日マリオン・コムとは | 姉妹メディア | 会員規約 | 個人情報・著作権
  asahi-mullion.comに掲載の記事や情報、写真の無断転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。
Copyright 2006 Asahi Mullion 21. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.

懸賞サイトは朝日マリオン・コム-懸賞 プレゼント、懸賞 応募、懸賞 旅行