「どうして今帰ってくるかな」とは口に出さない。けれど「あ、おかえり」の声に取り込み中なんだという含みをしっかり持たせて返事をする。あくまで明るく。あと10分あれば仕上がるのに。もうあと10分あれば、涼しい顔して迎えられるのに。
でもこのタイミングでの帰宅。半分使った野菜も、調味料も、笊(ざる)も鍋も、並べ始めたお皿も、そして出たゴミまでもが今、台所に散乱している。当の私はというと、メーンディッシュがラストスパートを迎えている、といったところ。こんな状態を見せるなら、いっそのこと帰宅が同時になってしまったほうがよい。新聞でも読みながら先に一杯やってもらって、乾き物でつないでてもらいたい。
なんとか完成させて、やっとこ席に着いたところで、「あれとって」「これが出ていない」と言われてもイヤな顔はしない。しかし、「これ、もっと硬い方がよいね」とか「まあまあだね」などと言われると、目をつり上げながらなんとか笑ってた私の顔から表情が消える。一瞬の沈黙。怒り出す日もあれば泣き出す日もある。夫も大変である。
料理は得意なはずである。でもタイミングが乱れるとうまくいかない。そして自尊心が傷つく。そういえば子供の頃、仕事から帰宅すると同時に料理を始めた母の手伝いをしていると、よく怒られた。あれは私と同じように、タイミングをくずされることが嫌だったんだろう。