「魚屋ならここ」と決めたお店がある。表通りからほそ〜い路地を進んだ住宅街に、ひっそりとある。「おいしいからぜひ行ってみて」と友人に薦められ、書いてもらった地図を頼りになんとかたどり着いた。
何を買うかは見てから決めようとするのだけれど、これがいつもなかなか決まらない。切り身で並んでいる魚に見慣れた私は、一匹丸々並べられた魚をひとつずつ聞いていく。「端からサヨリ、小アジ。これはサワラね。珍しいとこで、ヒゲダラね……」。うーん。ますます迷う。
注文を受けると、店のお母さんが量りにかけ、お父さんが下処理をする。イカ1杯なら半分はお刺し身用に、半分は煮付け用に、ワタは塩辛用に別の袋に入れてくれる。サヨリならおせんべいに、と骨も付けてくれる。
私はこの魚屋さんに来ると、幸せな気持ちでいっぱいになる。足が早い青魚のお刺し身も、港町で食べたのと変わらない味。包む紙も昔と変わらない経木なんだよ、と教えてくれる。帰りには、野菜やお母さんが作るポテトサラダを持たせてくれる。牛肉のしぐれ煮もあったっけ。帰り道はいつもルンルンする。
家に帰ると夕食まで待ちきれず、「ちぃとお味見」とつまみ始める。甘エビやホタルイカなどは止まらない。そう、これはおやつ……なんだ?! なくなってしまったものは、最初から夕ご飯のメニューにはなかったことにしてしまおう。