旦那(だんな)と伊豆を旅した。知人に予約した宿を告げると、「近くにおいしい寿司(すし)屋があるから絶対に行った方がよい」と薦められた。なんでも美食家で知られる著名人もその寿司食べたさに東京から日帰りでやってくるらしい。すぐさま連絡先をメモした。
2時過ぎに到着。店に入ると、まさに今、赤々とゆで上がったエビをご主人がむいているところだった。これは期待できる。私たちは「おまかせ」しかないメニューの松竹梅の真ん中を注文した。
「お嫌いなものは?」との質問に言いたくないと思いつつ、「カキです」と告げた。カキは数年前にひどい目にあって以来口にしていなかったのだ。「それは残念、聞いておいてよかった」と旦那にだけ出された岩ガキは、見たことがないくらいふっくらとして大きい。旦那の様はうまさを物語っている。私は我慢しきれなかった。「やっぱり私もカキくださいっ!」。考えるより先に言葉が出ていた。カキをもみじおろしとともに、ひと口。今まで口にしていたカキとは別物、甘くってクリーミーでこれなら海のミルクだとうなった。白身も赤身も、小さな木箱に入ったウニも堪能し、幸せな気持ちで店を出た。
しかし数十分後。胃がキリキリ、私はうずくまった。「だから奥さんはカキ駄目なんだって」と言う旦那に、「いや、あのカキならまたアタシは……」と消えそうな声で誓うのであった。