青山で骨董(こっとう)商を営む方の自宅兼ギャラリーを取材させて頂いて以来、自分でも骨董屋さんをのぞいてみることにした。ちょうど義理の母の誕生日に、日本酒が好きだからぐいのみもいいかもしれない、と思ったのだ。しかし骨董のお店というのはなかなか入りにくいものだ。審美眼のない客などうっとうしいのだろう。
小さなお店に女店主とふたりきり。「いらっしゃい」とも言われないまま、並んだ器を緊張ぎみに眺めていると「何をお探し?」と問いかけられた。「ぐいのみを……」。正直いくらか見当もつかなかったが、大分足りないようなのはわかった。
引き返そうとすると、でんと腰掛けていた女主人が「ここに座りなさい」と手招きしてきた。私は断り切れず、腰を下ろした。女主人は裏の棚に手を伸ばし、一升瓶を取り出した。そして売り物のぐいのみに注ぎ始めたのだ。「エッ? いえ、私は」と遠慮したのだが、お酒も残り数滴しか残っていなかったのでほっとした。するとなんと店番を仰せ付け、女主人はお酒を買いに近所に走っていってしまったのである。
コンビニの袋に日本酒と何種類かの乾きものを下げて、女主人は戻ってきた。腰を据えて話そうとしているその空気に参ったと思いつつも矢継ぎ早に質問され、しどろもどろ。私が新婚で共働きで2人の時間があまりないのを聞き出すと、知り合いの息子夫婦の話を例えに挙げて、うまくいくはずがないから改めるようアドバイスされた。結局3回ほど差しつ差されつ、最後は「あなたならやっていけるわよ」と励まされ店を出たのである。