夕食を作り出したのは今夜も10時を回っていた。まな板の上でアスパラガスにベーコンを巻き付けているとき、ふと思った。「ただいま」と帰ったときに私にもごはんが並んでいたら、さぞやうれしいだろうな。はて、なんで今こんなことをしみじみ思うんだろうか。あっ、そうだ。昼間事務所で、マンガ家の桜沢エリカさんご夫妻を紹介した雑誌の記事を目にしたからだ。
ご主人が家事全般をし、桜沢さんが仕事に専念するという夫婦の形が、とてもうまくいっている様子がうかがえたのだ。うちでは有り得ない。我に返り、巻き終えたアスパラベーコンを焼き始めると、お弁当のおかずのような、懐かしい油っぽいにおいが立ち込めた。同時に子供の頃の記憶がよみがえった。
ごはんを作ってもらうのが当たり前だった頃はなんにも考えてなかった。それどころか「今日のごはんは?」と聞いて「お魚の煮付けよ」なんて言われると、ガッカリして膨れっ面をした。「まったく可愛くない子だよ」と今、自分をしかりつけたいものだ。
しかし、この人のエピソードは強烈だ。子供の頃夕食にカニのクリームコロッケが出たとき「お肉屋さんのコロッケの方が気分なのに」と言ったそうだ。怒ったお母さんは罰として買ってきたコロッケをひと月出し続けた。ところがそれが全く苦でなかったという。なんて可愛くない子なんだろう。
その人は、間もなく帰宅する。