湿気を帯びたベタついた空気の中にいると昔の記憶に引き込まれてしまうことがある。その記憶の中の私も、蒸した部屋の中。お盆で父方のおばあちゃんちにいるのだ。ただでさえ暑いというのに、台所では特大の鍋でスープが仕込まれている。冷蔵庫には食材がギュウギュウに詰めこまれ、これらがこれから調理されていくのだと思うと、子供ながらに気が遠くなった。
祖母は厳しい人だった。そこにぴったりとくっついて、母は黙々と働いていた。「そんなにいっぱい作るの?」と聞いたことがある。「お客さんに出すものが足りなかったら困るでしょ」。……確かに親類は多いけど。祖母は5人の子供たちが独立してからもう随分たっても「少しのごはんはおいしく出来ない」と言っていた。体力があってピンピンしている祖母の生きざまが、たくましかった。よくよく考えてみれば、おばあちゃんだと思っていた祖母はその頃はまだ50代。そう思うとあの元気さに納得がいった。
数年前、台所にいた私の傍らに祖母が来て「スープは飲むかい?」と聞いてきた。それなりにおばあちゃんらしくなった祖母が作ったのだという。女性としてのしつけは祖母がしていたように今、思う。いつの間にか月日は流れ、私は大人になってしまったことを改めて感じると複雑で少し戸惑う。祖母は久しぶりに時間を共有したいようだった。その時のスープは濃厚でキュンとした。