高校時代、私は自転車通学だった。行きは30分切るのを目標に、街道を猛スピードで走り抜けていた。帰りはルートを変え、公園の中を突っ切って、女友達5〜6人、倍の時間をかけておしゃべりしながら帰っていた。土曜日の帰りには、その途中の住宅街にある小さな中華屋によく寄ったものだ。いや、ラーメン屋と言った方がイメージかもしれない。扉を開けたお客さんが、店を占領する女の子に毎度あっけにとられていた。
私たちはそろって中華丼を注文した。もうそれしか頼まないほど絶品だった。豚肉、ハム、ピーマン、タマネギ、ニンジン、ウズラの卵に火が通り出すと一気に味付けが始まる。おじちゃんが目分量で調味料をお玉に取っては、鍋に落としていく。片栗粉でとじられたあんが熱を閉じ込めて私たちの前に出されるまで、あまりのあざやかさに見いってしまうのだ。やけどしそうに熱いその中華丼をフウフウしながら「やっぱりおいしい」といつも誰かが言った。そして常連になった私たちにはよくアイスが出されるようになった。確か650円だった中華丼に、250円のハーゲンダッツが出てきたこともあった。
ところが困ったことに、隠れた名店は私たちをいつも一喜一憂させた。ここはおじちゃん2人で切り盛りしているお店。手が空いた方が出前に出掛けていく。上手なおじちゃんに限って「俺行ってくるよ」とあっさり出ていってしまうのである。