作り手の思いを 身近に
木漏れ日が差し込む寺の境内で紙芝居が始まった。
〈チヨコさんとコムギくんが浜辺にいると、海のかなたからピアノの音色が聞こえてきました……〉。子どもに交じって大人たちも熱心に耳を傾ける。お話が終わって、紙芝居のお兄さんが照れくさそうに一言添えた。「このお菓子から生まれたお話です」。お手製の菓子が並ぶ箱の中からチョコとココナツのクッキー「常夏ピアノ」を一つ取り出した。
稲尾教彦さん(26)は奈良県で小さな菓子屋を営んでいる。子どもたちが安心して食べられるものをと、愛情を込めて手作りする。そんな菓子を手に、東京・池袋の近くにある鬼子母神で毎月一回行われる「手創り市」に夜行バスでやって来る。「交通費ぐらいは売れないとなあ」と言いながらも、顔は晴れやかだ。
「市」には、陶芸家や学生などプロアマ問わず、ものづくりの好きな人々が作品を持ち寄る。主婦が子どもの寝静まった夜、こつこつと作りためたビーズのブローチ、サラリーマンが休日に作製した革のカバン――。先月は40組余りが参加した。
「いわば1日限りの青空個展会場です」と、この市を企画した名倉哲さん(27)。板橋区にあるカフェのオーナーで、店の一部をギャラリーとして貸し出すが、発表の場が少ないと作家たちが嘆くのをよく耳にしていた。そんな折、京都の寺で20年近く続く「手づくり市」を知った。地元のおばあちゃんが漬物を売る傍らで、若い人たちがオリジナルの靴や服を売る。「ものを作る人と見に来た人がじかにコミュニケーションする姿を見て、『これだ』と思った」
鬼子母神の市は、昨年11月に始まった。朝方は近所の人が散歩がてら顔を出し、昼過ぎになると子連れの夫婦や若い女性たちがやってくる。路面電車が走り抜ける下町の一角でゆったりとした時間が流れる。
◆ 手創り市
今月は30日(土)、午前9時〜午後4時。雨天中止。出展料は1ブース3000円。東京都豊島区雑司が谷3丁目(都電鬼子母神前駅)。問い合わせはロジカフェ(03・3956・2254、(日)を除く午後3時以降)。