豊かな表情秘める
サビが浮いた鋼のボディーに、なにやら不気味な煙を漂わせる、工場。とかく近寄りがたい印象だが、写真集「工場萌(も)え」の写真を担当した石井哲さんは、「花見やバードウオッチングのように、鑑賞して楽しめるものです」と話す。
石井さんが工場を意識し始めたのは、SF映画「ブレードランナー」を見たとき。背景に出てきたコンビナートの美しさが、心にとまった。「たいていの建造物は人の目を気にしたデザインですが、工場は『規模と効率と安全性』が機能美として表れているのがいいんです」
工場鑑賞家として、ほぼ隔週ペースで工場巡りをしているという石井さん。入門にすすめてくれたのが、千葉や鹿島などの有名工業地帯。「『工場の町』としてのPRのために、自治体が展望台をつくってくれていますから。港を一周する遊覧船もあります」。親切にも船内アナウンスは工場解説一色なのだという。
いざ目の前にしたら、「ワンパターンじゃない表情」にご注目。工場そのものが、大小のパイプが複雑に入り組んだ構造のため、ちょっと角度を変えるだけでも違った景色が見られる。また、日の当たり具合や空気の透明感など、時間や季節によっても雰囲気はがらりと変わる。石井さんが好きなのは、夕暮れ時。空の色の変化が楽しめ、かつ日が完全に落ちれば工場に電気がともる。「何度か足を運べば、『夜のコンビナートが好き』『製鉄所のフォルムが好き』など、自分の好みの工場がはっきりしてきます」
◎写真集「工場萌え」(東京書籍、1995円)。文は大山顕さん。