■三房跡にファン、夢託し■
その坂のどこかだと聞いたことはあるんですが――。
早稲田駅を出てすぐの夏目坂周辺で、漱石生誕の地の所在を尋ねてみるが、意外にもその場所は知られていない。
ガラス越しにどんぶりをかき込む姿が見える駅前の牛丼屋脇に、記念碑はひっそりと立っていた。近くには終焉の地「漱石山房」跡があり、公園になっている。
《早稲田に帰って来たのは、東京を出てから何年振になるだろう》
亡くなる1年前に書いた随筆「硝子戸(がらすど)の中(うち)」には、幼い頃の話や山房を訪ねて来る珍客との交流と共に、早稲田界隈(かいわい)の様子がつづられている。生家前から続く長い坂、近所の酒屋や寺。「落語好きの漱石は、寄席にもよく通っていたようです」と「漱石山房を考える会」副理事の加藤利雄さん(76)は話す。
見過ごされがちな漱石ゆかりの地に関心を持ってほしいと、地元のメンバーが区と協力して講演会や街歩きを企画。老朽化が進んでいた公園の整備にもかかわった。
現在、リニューアル工事中で、オープンは来年2月9日。「その日は漱石の誕生日なんですよ」。近い将来、記念館を作りたいと夢がふくらむ。