薄暗い店内の一角で、ひっそりと飾られた額縁に照明の柔らかな光が当たっている。先月下旬、東京・西麻布にオープンしたレストラン「Sweet Emotion(スイート エモーション)」。3点の「コケの絵画」は、午後6時から開放する2階の客席にある=
写真。「最先端のオトナのための空間」をうたう店のオーナーが気に入り、導入した。一見しただけでは本物の緑とわからないが、顔を近づけるとちょろちょろと水の流れる気配を感じる。店に来るのは2度目という佐藤智則さん(56)は「他ではあまり見ないアートですね。しかも自然に空気を潤すなんて。エコロジーでいい」とワイングラス片手に、感心した様子だ。
ミズゴケを利用したこの「リバー・リ・ウォール」は、土木建設会社の北海道三祐(本社・札幌市)が手がけている。土が要らず軽量で、室内でも手軽に設置できる。レンタル方式だと、料金はメンテナンス料を含めて月4万円から。同社は横浜市内の住宅展示場「ハウスクエア横浜」で同様の「絵画」を4点展示している。
開発者のコケ研究者・武田みのるさん(46)は、植物を可能な限り自然に近い形で生育させたら絵のようになったと説明する。電気やパイプを大量に使う人工的な「緑化」に疑問を呈し、川や湿原をモデルにした「自然化」をめざす。水は緩やかな傾斜で流れ、コケが適度な温湿度を保つ。緑だけでなく赤や茶の植物、微生物が共存する。コケが侵食し合い、季節や環境の変化で「絵画」は時間と共にゆっくり変化していく。
「リバー・リ・ウォールはありのままの自然に倣ったシステムなんです。身近にコケを置くと、まさに森林浴をしているのと同じ。空気清浄機や加湿器よりずっと自然に潤いを実感できますよ」と武田さんは自信をのぞかせる。
写真左:光が確保できれば、あとは水槽に水を足すだけ。水道管との接続も不要だ=ハウスクエア横浜、佐々木俊英撮影