吉野の山村で生まれた味
興福寺や猿沢池にほど近い、奈良市の中心部。古都の風情を醸す静かな路地に「平宗(ひらそう) 奈良店」は店を構える。県中部の吉野町にある本店は江戸末期の創業。吉野地方の家庭で食べられていた「柿の葉ずし」を、初めて商品として売り出した店とされている。
柿の葉ずしとはサバやサケ、コダイなどの魚を酢で締めて酢飯にのせ、柿の葉で巻いた押しずしのこと。葉を広げ、サバがのったすしをほおばると、甘酸っぱい米にサバがなじんだ上品な味わいが広がった。ほんのり、柿の葉がさわやかに香る。
海のない奈良県でも特に山深い吉野地方。車などない時代、熊野灘から運び込まれた魚が貴重だったことは想像に難くない。柿の葉ずしは、ごちそうとして祭りや祝いの席で振る舞われた。柿の葉を使うのは防腐の役割があるからといわれる。 「食材を長持ちさせるための先人の知恵です」と、奈良店店長の黒木貴光さん(36)が教えてくれた。
店では主に、初夏に取った渋柿の葉を塩漬けにして使う。米は同県産の「ヒノヒカリ」。葉で包んだすしを木箱にすき間なく詰め、重しをのせて一晩押す。多い時には一日3千個を握るという。