高い天井。丸太の柱。立ち込める湯気。後生掛(ごしょうがけ)温泉の大風呂は湯治場の雰囲気にあふれている。
「箱蒸し風呂」に入ってみた。1人用のサウナと思えばいい。木箱に入ってイスに腰掛け、観音開きの扉を閉める。顔は箱の外に出ているが、中は湯気がもうもう。たちまち汗が噴き出す。
もう一つの名物が「泥湯」。灰黒色の、ほの温かい湯だ。底にたまった泥を体に塗りたくり、薄暗い浴槽の隅に潜む。老いた獣が傷を癒やしている気分になる。低く唸(うな)ってみたりして。
東北地方は湯治場の宝庫だ。後生掛温泉は、近くの玉川温泉と並んで代表格といえよう。昔からのキャッチフレーズが「馬で来て足駄(あしだ)で帰る後生掛」。そのぐらい効く、ということらしい。
湯治棟は「オンドル」になっている。床下を蒸気が通り、ポカポカ温かい。これからの季節、雪景色の中のオンドルは極楽だろう。
大部屋に泊まった。同室の湯治のベテランたちと話が弾む。
仲良し3人組で北海道から来ている伊端シゲさんは79歳。いまも市民マラソンを走るご主人のことを、結局はノロケられた。
三陸・田老海岸(岩手県)の千葉福司さんは座骨神経痛を治しに。食堂で知り合った女性から、なぜか離婚の相談を持ちかけられている。確かに、海で鍛えた相談しがいのある風貌(ふうぼう)だ。
こんな湯治場で1週間も過ごせば、人生というものがもう少し深いところで分かる気がする。
ライター 宮本貢
撮影 小松ひとみ