鬼面山を目の前に、噴き上る2本の蒸気。これが新野地(しんのじ)温泉の目印だ。ドライブ中に山の木立の間から白煙を見つけ、温泉と知って入っていく人も少なくない。
近くに、「日本の道100選」の磐梯吾妻スカイラインが通る。時に雲海を眺める人気のドライブコースだ。しかし、冬季は土湯峠一帯の道は閉鎖。新野地温泉でも冬季限定で福島駅から送迎車を出す。宿まで約32キロ、市街を出ると雪道になる。
道中、運転手の宿スタッフによる周辺ガイドを聞きながら行くのも冬の宿泊ならではだ。
宿は安達太良連峰の中腹、標高1150メートルの立地だが、福島盆地を一望できる。夜景もきれいと評判。車から降りると硫黄の香りが漂って来た。蒸気は宿の裏手、露天風呂の辺りから「シューッ」と豪快な音を立てながら空高く上る。この蒸気、館内の暖房にも利用されていて、厳冬下でも浴衣一枚で暖かく過ごせるほど。
露天風呂へは、自然の立地を生かして作った木の通路を歩く。風呂の囲いは、木や小枝を立てたシンプルな造りで野趣に富んでいる。
さっそく薄緑がかった白濁の湯を堪能する。蒸気が風吹くままに形を変える様を見ていると、時間が過ぎるのを忘れてしまう。そうして温泉から出入りを繰り返していたら、肌がツルっとしてきた。
翌日、送迎車に乗り込むと、意外なお土産が付いてきたことに気が付いた。自分の体から硫黄の香りがする。何度も腕を鼻先にくっつけては、温泉の情景を思い浮かべた。
文 上林千紗子
撮影 上田頴人